共通テスト、地獄説

1、問題編

次の風船太郎くんと風船花子さんの会話を読んで、以下の問いに答えなさい。なお、雪原と風船の摩擦および空気抵抗は考えないものとする。

太郎「雪山風船太郎レース、凄かったね。30°の傾斜70mをしげきくんととしあきくんが降りる決勝戦はギリ笑えないほどのスピード感だったよ」

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花子「そうね。でも、斜面を降りる物体の下降速度は物体の質量によらないから、正直タンスとかでも似たようなタイムになったんじゃないかしら」

太郎「確かにそうだね。一体、どれくらいの速度だったんだろう?」

花子「たしか、理科の授業で習ったけど、物体が地面に垂直に下降する速度は下降している秒数tに比例し、その比例定数は、9.8だったわね。」

太郎「つまり、【アイ】/【ウ】t[m/s]となり、垂直に下降する距離はこの1/2t倍だね」

花子「そして、斜面を下降する物体の速度は、斜面上の距離ではなく、水平面に垂直に測った物体の高さによるから、【アイ】/【エオ】t^2=【カキ】となるtを求めれば、まずtが分かるね」

太郎「ということは、t=【ク】√【ケコ】/【サ】で、ゴールした瞬間の速度は【シ】√【ケコ】m/sと分かるね」

 

(1)空欄ア〜シに当てはまる値を求めよ

 

太郎「そういえば、としあき君が決勝では地面が見えなくなる、と言っていたね」

花子「そうね。風船が膨らんでいると死角が多くなるのね」

太郎「実際、風船の直径を1.8m、としあき君の身体のうち風船から出ている部分を0.2mとして、下図を元に考えると、としあき君の目線と地面のなす角αは、下図の角【ス】と等しいから、cosα=【セ】/【ソタ】、sinα=【チ】√【ツテ】/【トナ】と分かるよ」

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花子「つまり、としあき君の半径【ニ】√【ヌネ】/【ノハ】mは死角になるということね。地面が30°傾斜すると死角はより増えるのかしら」

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太郎「としあき君が斜面を滑る直前になるように図を書き換えてみたよ。このとき、としあき君の前方と地面のなす角βは平地のときより【ヒフ】°だけ小さいから、sinβ=(【へ】√【ホマ】ー【ミ】)/【ムメ】となるから、前方(【モヤ】√【ユヨ】+【ワヲン】√【あ】)/【いう】mが見えなくなるね」

(2)空欄セ〜うに当てはまる値や文字を求めよ。なお、セは「a、b、c、d」から当てはまるものを1つ選べ。

 

2、解答・解説編

【アイ】/【ウ】……49/5

一応解説しておくと、9.8を分数にできたら得点できる問題です。本家センター試験ならびに本家共通テストではここまで甘い問題は出ないでしょう。頑張ってね。

(【アイ】/)【エオ】t^2=【カキ】…(49/)10(t^2=)35

ということで、空欄エオは49/5の1/2倍ができれば取れる程度の問題です。【カキ】は中学範囲の力学ながら注意が必要。30°がいわゆる特殊角であることを利用して、70mの傾斜の下降と35mの自由落下が同値であることに気づきましょう。

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t=【ク】√【ケコ】/【サ】…5√14/7

t=7、厳密には49/10t^2=35より、両辺を7で割って7/10t^2=5とすると、t^2=50/7となるので、t=√50/√7=5√2/√7=5√14/7となる。

【シ】√【ケコ】m/s…7√14

t=5√14/7と分かれば、それを49/5tに代入するだけです。なお、7√14は大体26くらいなので、計算上は秒速26m、すなわち時速93.6km出るそうです。時速93.6kmって………特急列車かよ。*1

【ス】…c

下図において△OABと△ACDは内角が90°と角aなので、残りの内角も等しい。よって、α=c

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【セ】/【ソタ】…9/11

誘導に乗っかる+三角比の定義で、即刻出る。2010年のセンター試験では三角比の定義を使う問題が出たときは逆に盲点と言わんばかりの平均点だったが、共通テストでは大頻出問題の一つとなっている。

sinα=【チ】√【ツテ】/【トナ】…2√10/11

相互関係を使えば一撃。もちろん三平方+三角比の定義でも可*2

【ニ】√【ヌネ】/【ノハ】…9√10/10

おそらく、tanαの逆数と見るのが解きやすいはず。tanαは………相互関係使って出すんだよ!

【ヒフ】…30°

勘でも埋まると思いますが、下図のように元の地面を書き足すと、外角の定理よりα=30°+βとなる。

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sinβ=(【へ】√【ホマ】ー【ミ】)/【ムメ】……(2√30-9)/22

sinβ=sin(α-30°)=sinαcos30°−cosαsin30°、ということで加法定理の登場です。共通テスト数学IAを想定して作っていたのですが、数学Ⅱの定理が登場してしまったので終了です。ごめんな。

【モヤ】√【ユヨ】+【ワヲン】)/【あい】m………(72√30+144)/13

ここですが、正弦定理を外接円の半径を求めるため以外に使うという盲点的小技を使います。

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ちなみに、9√10/10mは約2.8mなのに対し、(72√30+144)/13は約41mであり、地面が見えないどころか70mあるコースの半分が視野から消滅する計算となっている。

 

3、出題意図編

こちらの問題を解くことにより、雪山風船太郎レースがいかに危険かがよく分かったと思う。しかし、この記事の目的はそこではない。タイトルにもある通り、改めて共通テストの問題点を炙り出すことにある。

共通テストは、「自らの力で考えをまとめたり、相手が理解できるように根拠に基づいて論述する思考力・判断力・表現力」や「主体的・対話的で深い学び」を評価できるテストということになっている。また、特に数学においては、身近な問題を数学で解決しよう!というコンセプトも見られる。これは、「思考力・判断力」にあたる部分である。また、会話文形式の問題が散見されるのは「対話的で深い学び」の一環と言える。

そんな共通テストに対して、オルソンブログでは懐疑的を通り越して「クソぶっかけてやるよ」という意見を前々から表明してきた。そして、2022年の共通テストでとうとうIAⅡBともに40点前後というセンター試験時代には存在しない記録*3を叩き出してしまう。これは、「文章読解力は国語の試験で問えよ」「応用できるか以前に基礎技能を問えよ」と言ったベタな批判をはねのけて強行した結果、文章題は解く速度が文章を理解する速度に依存するので、作問者が解く時間を読みにくいという問題点をも炙り出しているように見えた。解く時間が読みにくくとも、なお文章題を強行するのか?それともセンター試験に戻るのか?2023年の共通テストの行く末やいかに。

また、「身近な問題を対話によって解決する会話文形式の問題」の身近な問題が本当に身近な問題かどうかも怪しいもんだ、という話は先ほどリンクを貼った話にも書いているが、プレテストより閲覧者や受験者が大幅に増えたことで、今回特に大きくバズることになったように思う。

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特に有名なのは数学ⅡBの数列の大問で出現した、激キモストーカー自転車と激キモストーカーに追いつかれると止まる激キモ歩行者の珍道中だが…

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キャンプ場に三角比の表を持ち込む太郎君と「鉛直方向の縮尺」などのパワーワードをキャンプ場で振り回す花子さんのキャンプも激キモ珍道中である。身近な問題でも何でもないね!!!!

そして、「身近な問題を対話によって解決する」例として、この記事では雪山風船太郎レースを挙げているが、QuizKnockは別の問題を対話によって解決している。

私とQuizKnockの共通点、それはどちらもセンター試験は受けたが共通テストは受けていないこと、つまり、数学が身近な問題を解決する文章題を解いた経験が乏しいことである。しかし、私もQuizKnockも勉強してきた数学を使いたい時に使うまでなのである。「30°」と聞いて特殊角じゃん、と思うために自分は数学を勉強してきたのである。一方の共通テスト、変な歩行者と自転車の輩を設定したりしてまで、「身近なことに数学を使おう!」ということをゴリ押ししても、むしろ数学嫌いが増えるだけなんじゃないか?と思う。そして、この記事で一番言いたいことは実はそこなんです。「点Pが動くわけないのにこの問題に何の意味があるの?」の答えは、そう言った問題で頭を鍛えるとか、台風の進路などの現象をシミュレーションできるようにする*4といった形で出すべきだったのですが、共通テストでは「じゃあ規則的に動く点Pじゃなくて規則的に動く歩行者にしたる」だったということです。これで数学好きが増えるんですかね?

 

ということで、ここまで読んでくれた皆さんに、数学の問題を一つ置いてから終わります。

 

ある5段ベッドに寝ている成人5人の年齢を足すと197歳となる。5人の年齢は高い順に「祖母、母、長男、次男、長女」で、同じ年齢の者はおらず、祖母と母と長女の年齢の比は11:7:3である。

このとき、5人の年齢として考えられる組を全て求めよ。なお、「成人」とは20歳以上を指すものとする。

*1:雪原の摩擦や、風船に入っていたしげき君がブレーキをかけることを考慮していない速度ではある

*2:実質同じ解き方の模様

*3:2015年の数学ⅡBが39.31点を叩き出しているがその年の数学IAは61.27点。センター試験で平均点を一の位で四捨五入して40点になるのは、2015年の数学ⅡBのみ

*4:もちろん台風は点Pほど規則的に動かないが、規則的に動かないものがわからずに、不規則なものも分かるかというと…???