R-1ぐらんぷり2018感想

 3月6日火曜日の19時から21時に、R-1ぐらんぷり2018の決勝がオンエアされた。今更ながらその感想を書いておきたいと思う。

 f:id:EF_510_514:20180311235804p:image

弊ブログの閲覧数も更新していないのに3月6日を境にR-1バブルが来るという大変読者を裏切った形になってしまったことは申し訳ないと思っている。

なぜ、更新がここまで遅れたのか?それは私がサークル合宿に行っていてリアタイ視聴できなかったからだ。長い人生の中には準々決勝はリアタイで見れた*1のに決勝はリアタイで見れないお笑い賞レースなんかも出て来る…らしい。そんな合宿の時のことは許可が出れば記事にするかもしれないけどそもそも許可を取っていないという有様なのだが、それはさておき18時ごろに宿に着き明日の話をしたり布団の位置決めをしたりして、夕飯開始は19時。そして夕飯の店でもずーっとトークに花が咲き部屋に戻ったのはちょうど21時であった。これはサークル合宿の予定はまっっっったく悪くなく、火曜日の19時という非常にしょーもない時間に放送するフジテレビ側の問題である。キングオブコントM-1グランプリも土曜日やぞ。俺も「R-1は休日にやるだろうし、合宿は土日被せてこないからセーフやろ」と思ってたからR-1が平日になるって聞いて驚いたわ。そんで平日なのは仕方ないとして2時間枠なのに19時て。この国の社会に平日19時に、その日のやることが全て終わって、どっしりとTVの前に腰を据えてピン芸人たちのネタを2時間見れる人間がそうそういると思うなよ。土曜日の21時にやれよ。その週の土曜日21時IPPONグランプリて。いや面白いけど、このバカリズム大喜利で答えたフリップ全部繋げると地球から月までの距離になるといわれている宇宙時代にバカリズム大喜利するとこ見たいかよ。若手も育てろよ。何、AI-TVをとんねるずで押し出してくれてんだよ。まあAI-TV自体は演者はともかく、企画が終わってるのでそういう意味で打ち切りは惜しくないけど。

あ、そうそう以下感想なんでR-1ぐらんぷり2018のネタバレ要素がっつりあるので注意です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずはAブロック

「生姜」。息子のパソコンを借りた父親。その時見つけてしまった秘密のフォルダに入っていたのは……生姜の画像?

ルシファー吉岡お得意の下ネタコント。ただし、下ネタではあっても単なる低俗なネタではなく「生姜をオカズにしてるのか?」や「今日も我が家は平和です!」、「お前もうアウトだよ!」などのセリフまわしや、展開の掘り下げ方が実に良い。「生姜のフォルムがエロい」という着眼点からここまでのコントを作り上げる力に脱帽だ。トップバッターなうえ下ネタということで視聴者投票でも評価は芳しくなく、視聴者の中には不快感を示す思う人も多いとは思う。でもその不快感を馬鹿馬鹿しさが超えてくるだろ?*2そう言わざるを得ないコントだった。

 

雅楽モノマネ」。準々決勝と同じネタ。準々決勝で見た時は「イロモノなので別ルートから売れることはあってもR-1のような賞レースで評価されない」と思っていたら決勝まで来たので驚いてしまった。ネタは「細かすぎて伝わらないモノマネ」だが、従来のそれは「モノマネされてみると確かにわかる」か「モノマネ自体はわからないや顔や声が面白い」の2種類に大別できるが彼女の雅楽モノマネはそのどちらでもなくただただ「わからなさ」で笑いを取っている。

それを踏まえ、このネタを2度見すると確かにただのイロモノ芸人で切るにはもったいないくらい構成がよくできていることに気づかされる。序盤に笙を流し、服装も雅楽で固めることで手数を犠牲にしてでもキャラクターを浸透させる。だからこそ「モノマネをします」というセリフそのものがボケになる。そしてそのモノマネも1つ目で「モノマネのフリで専門用語が多い→モノマネ自体も言われてもわからない」の流れを提示したあと、2つ目のモノマネでは、フリの段階で専門用語をめちゃくちゃ増やし、モノマネ本編はめちゃくちゃ短くすることで1つ目より分かりにくさをめちゃくちゃ増強するという「右肩上がりの構成」の実現に成功している。そして、「笙を使わない」と言ってショートコントの件を挟んで、結局笙を吹いたと思ったら曲は「蛍の光」でネタ終了を知らせるという「共感の笑い」までも盛り込み、最後の平安時代の部屋あるあるでは平安時代関係ないことを言うRG的な笑いも取る。「雅楽モノマネというただただわからないことをする」というアイデアを笑いに変えるための構成面での仕掛けが目白押しだ。

惜しかったのはショートコントの件。あそこはちゃんとスベっておかないといけなかったのだが………。軽すぎる観客相手というのも難しいものである。

 

  • おいでやす小田

「ホテルの電話」。ホテルのフロントに601号室の尾崎という客から電話がかかってくる。それも度々かかって来て…。客自体の感じはTwitterでよく聞くアホな客といった感じだが、ホテルの内線電話を挟むことで、想像力の笑いを生む効果と電話を切ってからツッコミでキレることを自然する効果を生んでいる。「そんなちっちゃいシミ見つけられる奴が何でドライヤーの位置分からへんねん!」など電話一つ一つを散漫にしない工夫もある。良いネタだった…良いネタだったけどなあ…。

 

「ハゲの名は」。ある朝女子高生が起きると外見がハゲのおっさんになっていて…。準々決勝と同じネタであり、準々決勝では決勝の5倍くらいウケて、その日のトップウケだったネタ。直球の版権パロでも一番笑えるネタが一番審査員(視聴者投票含めて)に評価されて最終決戦進出というのが、なんともR-1らしい。

でも実際、君の名は。頼みな部分は「女子高生と入れ替わり」という設定のみで、宮迫や陣内が言っていた通り「間接的な自虐」というハゲネタの見せ方の新しさや、「ハゲの性欲ハンパないじゃん!」とか「ハゲとすれ違う時息止めてたし、念のため財布抑えてたんた!」のようなハゲに偏見をぶつける中盤以降のボケなどはオリジナリティとして評価されるべき部分なんだよな。準々決勝イチウケのネタは伊達じゃない。

 

 

 

続いてBブロック

  • 川邑ミク

 「レンタル彼女」。彼氏と星を見に来た彼女。しかし、彼女はレンタル彼女で…。レンタル彼女、確かに以前TVで見たことあったがこの設定は巧い。時代性の切り取りという観点でもそうだが、バイきんぐの教習所のネタのような叙述トリック的な設定も巧いし、笑いの作り方は多重人格のコントのそれなのに設定は多重人格ではないのも巧い。そして、このネタに欠かせないレンタル彼女の時のキャラとレンタル彼女の時間が終わって従業員のキャラになる時のキャラのメリハリをつけた演技も巧かった。今年は本当にハズレなしでレベル高かったとはいえ0票はちょっともったいないネタ。

 

  • チョコレートプラネット長田

 「ジェットコースター」。ここも準々決勝と同じネタ。単純にイマイチだったので準決勝進出の段階で驚いたのに決勝進出したのでもっと驚いた、というのが率直な感想。

しかし、じゃあ決勝でもイマイチ笑えなかったかというとそんなことはない。それは空気の違い、私自身の体調の違いもなくはないかも知れないがそんなことだけではない。ボケの多くを「ディメイキッド」や「アントラブルヘルメット」のような専門用語の難解さに絞ったからだ。これによりセリフとアナウンスが被っているという問題点を「セリフとアナウンスが被ってる部分のアナウンスは聞かなくても笑える、ということを提示する」という方法で解決している。笑いの取り方を絞るというのもわかりやすく笑えるようにするという点で良い工夫だったと言える。票は少し入りすぎな気がするけど。

 

 「昭和の日本の映画に出て来そうな女優」。これまでR-1にかけてきたゆりやんのネタというと一見一人コントだがその実一言あるあるネタや細かいモノマネであることが多かった。そのネタが個人的にハマれない芸人だったのだが、今回はそういう一言ネタじゃないちゃんとした一人コント。いわゆる形態模写の一人コントという点でいうと友近柳原可奈子横澤夏子とかなりの女芸人の先人がいるジャンルではあるのだが、「昭和の日本の映画の女優」に注目した先人はいないのでは。この段階でまさしくオンリーワンなネタなのだが、一人コントとしても「ひどいわ、先生」の天丼に、どんどん何言ってるかわからなくなる「私のことを何もできないお嬢様だと思っているんでしょう?」、終盤でバラされる先生に連れてってとねだっていた場所、とボケや構成がしっかりしていて、キャラだけに依存しすぎていない良作。これはハマったなあ…。意外と一言ネタより一人コントの方が向いているのかもしれない。

 

 「せっせいせいや」。せっせいせいやのリズムに合わせて、せいやが一発ギャグやショートコントや短めのモノマネを披露していく。そういえばイロモネアでも一発ギャグとショートコントとモノマネって境界ガバガバだよね。スモークにビクッとなった件は素なんだろうか?中身はさておき、せっせいせいや自体は新しい波24でもやっていたネタ。俺がせいやを見る目が変わっただけかも知れないけど、せいやの表現力というかコミカルさっていうのがここ最近急上昇してるような気がするんだよな。すべらない話でも内容はヤバいのにコミカルさで笑いに変えていっている印象だったし。今回のネタも持ち前のコミカルさでネタの散漫さとか発想面でやや甘い感じとかを吹っ飛ばした感じで、ウケこそしても審査員から評価をもらうとなると少し厳しい感じのネタ。あとどうでもいいけどエントリーナンバーの札は取れよ、ずっとプラプラしてたぞ。

 

 

ここからCブロック。

  • 濱田佑太郎

「 嘘やろと思ったこと」。生まれつき全盲の濱田が全盲のエピソード漫談をする。NHK新人演芸大賞をたまたま見たので個人的にはネタ及び優勝したとこを見るのは2度目。ただ、たかだか数ヶ月しか経っていないはずなのに新人演芸大賞の時より明らかに話術が上がっていたような。流れるような喋りで笑いにくいはずの「盲目」というテーマをグイグイ笑いに変えていく話術は見事としか言いようがない。「嘘やろと思ったこと」でテーマを固めているのに話題は様々なのも良い。個人的に特に好きだったのは最後の修学旅行の件とダーツの件。

ネタ感想はここまで。ここからは彼の「盲目エピソード漫談」というのを考えてみる。よく「障害は欠点でなく個性」とはいうが実際目が見えないよりは目が見える方がいいし、耳や身体など他の障害でもそれは変わらない。障害を持っていたらできない職業というのはどうしても多い。しかし綺麗事でも何でもなく「障害を個性」として仕事にできるのがが、常に個性が求められる職業ことお笑い芸人だった、と言えるのではないか。インタビューで自身のことを「ネガティヴ」と言っていたように彼のネタはぼやき漫談が多い。ぼやき漫談というのは松本人志千原ジュニアが得意としている「世間で常識とされていることや世間にいるアホな人を常識として見ずにツッコミを入れていく漫談」だ。この「常識を常識としない」という立ち位置に「視覚障害」でもって立ち、まんまとR-1優勝を果たした人物、それが濱田佑太郎なのだろう。彼を知って「同じ障害者として勇気づけられたので芸人になる」という障害者がいるとすれば、間違いなくそれはやめた方がいい。健常者でも多くの芸人が食べていけていないという事実があるからだ。ただ、彼のネタが障害者の見方に影響を与えるのは事実だと思う。

 

「プロポーズ」。 ある男性にプロポーズされた女性、しかしこの女性はそれを「男運が上がっているから」というとんでもない理由で断って…。準々決勝とは違うネタ。準々決勝やTHE W決勝でかけたネタと違って同じフレーズを被せるのがないのは、ストーリーとして見やすくなったような笑いどころという意味でむしろ見にくくなったような。紺野ぶるまが得意とする延々と毒の入った本音を独白していく一人コント。ニューヨークとかに近い芸風だけど、女性としてもピン芸人としてもこの芸風の人って貴重なのよね。全体的にもっとウケていいような気がするけど、こういう芸風がR-1の決勝でウケた試しってないのが悲しいところである。特に中盤、レストランの店内で「この可もない不可もないレストランで…」って叫ぶ件と登山にまで毒を吐くヘリコプターの件はもっともっとウケていい。

 

 「ツッコミカルタ」。以前のR-1では「脈絡のないフリップに延々ツッコミを入れる」というショートコントのフリップ版のようなことをして準決勝までは来ていたが決勝には来れなかった芸人。個人的な印象は「これだけ脈絡なしのセンスだけでここまで面白いなんて…」という思いと「構成なしで準決勝まで来れるならしっかりフォーマットを作ってくれば決勝来れるのに…」という思いが共存していた芸人だ。

今回のネタは「フリップ」を「カルタ」にすることで「頭文字を設定」というフォーマットを作ることで決勝に進出。ただこれだけでは、頭文字の設定も自作自演なので効果的とは言い難い。そこで「同じ絵札の頭文字違い(同じ絵札に2個以上ボケがある状態)」、「相田みつをそんなん言わんねん被せ」が効果的に効いてくる。カルタのルール説明含めてテンポがゆっくり目だったのも決勝の観客や一般視聴者には効果的だったのかもしれない。でもその分以前のハイテンポより手数は少なくなっているはずなのでもったいないといえばもったいない。

 

  • マツモトクラブ

 「ストリートミュージシャンの父」。ここも準々決勝と違うネタ。正直、準々決勝のネタの方が細かいボケが入っていて決勝向きだと思ったけどなあ…。ストリートミュージシャンという設定は2015年に彼が初めてR-1決勝に来た時のネタを彷彿とさせるが、親子という設定やショートコントのような見せ方は2016年にR-1決勝来た時のネタのよう。夢を追って働かずにストリートミュージシャンをやる息子の横を通る父という設定や、かつて父も夢を諦めていたという事実などストーリーに重みがありつつ、でも笑えるというマツモトクラブの持ち味がしっかり出たネタ。「登場人物の声を流すことで一人コントなのに登場人物を二人以上にする」というマツモトクラブが生み出した技法にもう一個新しい見せ方が載せられた感じだ。これまでのR-1だとストーリーの重みが評価をもらうという意味では邪魔になることもあったんだけど今回はちゃんと評価されたようである。ギリギリ最終決戦行けなかったけど…。

 

 

 

そんで最終決戦。

 「ハゲの名は」。ある朝ハゲのおっさんが起きると外見が女子高生になっていて…。一本目のネタを女子高生側から。かつて賞レースにおいて二本目で一本目と同じネタをやろうとして止めるという掴みをした芸人(年のM-1フットボールアワーや2014年のTHE MANZAI博多華丸大吉など)や一本目のボケの高々1個を2本目に持って来て天丼した芸人(2008年のM-1NON Styleや2013年のR-1の三浦マイルドなど)はいたが、ここまで1本目ありきのネタをかました芸人はなかなかいないのでは。

何しろ「犬じゃない!」とか「アラジン、トイストーリー、美女と野獣、オズと魔法使い…趣味が合う!」とかは1本目を被せたというより1本目ありきのボケだからなあ…。あと「ハゲにめちゃくちゃな偏見抱いている女子高生の父親がハゲ」と「ハゲにめちゃくちゃな偏見抱いている女子高生がブルースウィルスは好き」とかも面白いんだけど一本目との繋がりでいうとむしろ雑でもあったり。面白かったけど評価する、優勝させるとなるとさすがに厳しいのでは…。

 

 「お願いがあります」。街中で慌てながら走る女性、そのまま街中で「お願いがあります!」と叫び…。コントと見せかけて一言ネタといういつものスタイル。一本目を見て(意外と一言ネタより一人コントの方が向いているのかもしれない)と思ってしまった身としては(また戻っちゃったなあ)と思ったり。

ただこのネタを見てなぜ、彼女が結局一言ネタなのに違う設定のネタを作り続けるのか、がわかったような気がする。完全に憶測だが彼女は恐らくオスカー賞の授賞式(2015年)やイメージビデオ(2017年)のようにやりたい設定がまず出てきて、その肉付けとして「一言ネタにする」という流れでネタを作っているのだろう。そう考えると、ビジュアルでもキャラクターでも妙に完成された叫ぶおばさんの演技、BGMに合わせて踊られる無駄にキレッキレのダンスは「やりたいことをやりきる」という意味でベストアルバムのようなネタだったと言えるのかもしれない。一言ネタ自体は相変わらずベタすぎる気がしたけど、動きの笑いは生で見るとTVの2億倍は面白い(これもR-1準々決勝を見た経験)ので優勝もなくはないと思ってしまったな…。

ところで、設定のモチーフは「エイリアンが攻めてくるとか、そういう街中で叫ばれても誰も信じないような予言を一般人が1人だけ受け取ってしまったタイプの映画の冒頭」でいいんだろうか、ちょっと自信がない。この辺の世界観の曖昧さ、分かりにくさもやりたいことやった感が出ていて嫌いじゃない。

 

  • 濱田佑太郎

「漫談」。優勝した瞬間「僕、めちゃくちゃ噛みましたよ!?」と言っていたが気づかなかった。話術がしっかりしている証拠だ。ネタはフリが全部「嘘やろと思った話」で統一されていた一本目以上に散漫(「盲目」という別のテーマは当然ある)な漫談。序盤の優勝賞金のくだりは決勝進出者記者会見でもやっていたボケだと聞いていたけど笑っちゃったな。話術がしっかりしている証拠だ。「うちの(盲)学校の階段点字ブロックがなかったんですよ」で観客「ええ〜」、でもその間をすかさず「一番いるやん!」で埋めてからの「何このスパルタ教育」で悲鳴分きっちりウケ返す!話術がしっかりしている(ry。ここの瞬間最大風速は一本目より大きかったですねえ。優勝も妥当と言わざるをえない。

 

 

  • 総評

一言でいうと本当にR-1ぐらんぷり史上最高クラスの大当たり回じゃないですか?みんなそう言っていたような気がするけど実際に見るとその意味がよくわかりますね。ただその分M迫のネタ後コメントの引き出しの狭さが引き立ってしまうという。本当に全員面白かったし、「ピンネタの多様性」がそのまま「見れるネタの多様性」につながった非常に有意義な回だったのでは。過去2回の優勝者から見ると絶対勝てそうにない純然たる漫談が勝ったというドラマ要素も込みでよかった、本当によかった。ただ審査ルールに関しては一個だけTwitterでも言った文句が…

 

皆さんはどう思います?

(最後の最後に丸投げしておしまい)