面白くないTV番組はなぜ面白くないのか

最近、「TVが面白くない」という声をよく聞く。最近といってもここ5年はみんな言ってるようなことだと思う。「TVはもう終わりだ」とも言われる。しかし、TVは5年以上面白くない、と言われても終わらないのである。なぜか?それは視聴率があるからである。このブログの読者がいかに冒頭の「TVが面白くない」という声に対し、「それなわかる」と己の語彙力を2にしてまで言ったところで、見ている人は見ているのでTVは終わらないのである。なぜ面白くないのか。これを掘り下げて行くと以下のような理由が出てくる。

1、面白くない番組の方が視聴率があるから

2、一度当たったコンテンツを何度もやるから

3、コンプラを守ろうとするから

4、コンプラを破ろうとするから

5、TVがつまらない理由をみんなが知っているから

一つ一つ、敢えて詳しく説明しようと思う。

 

1、面白くない番組の方が視聴率があるから

これはいきなり訳のわからない見出しが出てきた、と思うだろう。しかし、そんなことはない。一番分かりやすい例が、2017年8月26日である。この日は24時間TVの放送日であるが、同時にテレビ東京が「ゴッドタン」という番組を真裏にぶつけてきた日でもある。ゴッドタンとは、かれこれ10年近く深夜2時ごろにテレビ東京がやっているバラエティ番組であり、多くの新企画や若手芸人発掘*1を行なってきた、コアなファンがけして少なくない番組である。ゴールデン化の際にはさすがに評判が良さげな企画で置きに行った部分もあるものの、東京03角田やロバート秋山などが歌自体のクオリティは高いのに、しょーもない歌詞の歌を熱唱する「マジ歌選手権」、街頭インタビューで「この芸人が嫌いな理由は?」というクイズを本人の前で解答させたり、「嘘のゴシップを言っても真に受けられるのは『そういうことしてそう』と思われているからだ」という論理の元、嘘のゴシップを言い合い、最終的に「ハライチ澤部とバイきんぐ小峠は副業で白バイ隊をやってる」とか言い出す「マジキライ選手権」などは腹が千切れるくらい笑った。比喩とかじゃなしに3時間半笑いっぱなしだった…というのはさすがに嘘で、2時間くらい腹が千切れるほど笑ったら腹の筋肉が疲れたので録画を少し止めて休んだ

…今とんでもない単語が飛び出したのがわかるだろうか?そう「録画」である。ここまでさんざんゴッドタンを持ち上げてきた私だが、そういう私もゴッドタンを見たのは録画なのである。録画では視聴率にならない*2。しかし、面白い番組をガッツリ堪能するには録画の方がいいという事情がある。よって面白い番組は視聴率にならない視聴率になる番組というのはガッツリ面白い番組ではなく見ても見なくてもさしたる影響のないBGMのような番組なのかもしれない…。現に、ゴッドタンの視聴率は大変残念なことになったらしいし、甲本ヒロトという歌手も「一番売れてるものが一番いいものだとしたら、一番いいラーメンはカップヌードルになっちゃうよ」と言っていたのでこの仮説は多分間違ってない。

ついでに言うと、ゴッドタンのような芸人が集まってワーワーやってるだけで情報とかは皆無な番組よりグルメだとか日常の裏技だとかの情報が入ってる番組の方が視聴率が出るという事実もある。どうやら世間は東京03角田やロバート秋山の歌より渋谷のワンコインランチなどに興味があるらしい。だから、面白い番組、というか芸人が企画に沿ってワーワーやってる番組とかネタ番組とかが消えるんだよ。悲しいね。そんな、しょーもない番組の批判を芸人がしてるサマを流した番組が、2017年9月16日25時45分から放送していたゴッドタンなんです!*3

 

2、一度当たったコンテンツを何度もやるから

第1章であげた面白くはない番組の例として「渋谷のワンコインランチ」を提示したが、TVというのは基本的に一度当たったコンテンツをいろんな番組やいろんな局でやり、視聴者が飽きるまで、いや実際には視聴者が飽きてちょっと遅れるまで流し続ける。その理由は「一度当たったからでしょ」と思っていたが、さらにもっと理由があるのではないか?と思ったのである。

その理由とはクレームが来ないからである。そう、私に言わせればTVには新しくて面白い企画や映像をどんどん流してほしいのだが、現状はクレームが来ると怖いという理由でTV局側が萎縮に萎縮を重ねているのは、読者もよく知るところであろう。そこへ行くと、「一回当たったコンテンツ」というのは「一回やったらクレームが来なかったコンテンツ」ということである。これをちょこちょこっと焼き直してから出せばクレームは来ない。来るはずがない。しかも当たっているんだから、視聴率までついて来る。これが、一回当たったコンテンツ最強説の全貌であると思う。と、言いたいところだが、一回当たったコンテンツ最強説の全貌はまだある。

ここでまた芸人の話をしようと思う。先ほど私は「TVには新しい企画や映像をどんどん流してほしい」と言ったが、実は初見の芸人のネタはウケにくいという事実がTVだけでなく劇場などでもあるのだという。そしてその理由だが、TVに出ている芸人というのはキャラ付けがされていることが多い。「クロちゃん=嘘つき」、「村本大輔=クズ」、「近藤春菜角野卓造などに似た人」などと言った具合に。そして、キャラというのは笑いどころに繋がる、視聴者と番組の共通認識である。しかし、初見の芸人にはキャラ付けがない。つまり、笑いどころにつながる共通認識がないという点で、売れていない芸人は、売れている芸人に対して不利なのである。コンテンツにも同じことが言えそうである*4。つまり、新規コンテンツを当てに行くより、一回当たったコンテンツをもう一回流した方がよりウケるのである。ここまでが一回当たったコンテンツ最強説の全貌である。そして、これにより芸人に限らず、同じような演者が色んな番組に出て、いわゆる若手が出て来るスキを与えない原因であるように思う。

ちなみに、「キャラ付け」というのは芸人側がTV番組で何度もネタ*5をやって提示する場合もあるが、芸人でないコンテンツを当てに行く場合、テロップとナレーションで強引に提示するという手段が取られることが多い。むしろ最近はテロップとナレーションを出せば何でも面白コンテンツになるとでも思ってるんじゃないか、と言わざるを得ない粗雑な番組も増えた。そして、強引にでも当てたコンテンツは、何度も何度もいろんな番組で当てられることになり…。

 

3、コンプラを守ろうとするから

まあ、第2章でも書きましたけど、今TV局はクレームを恐れて萎縮に萎縮を重ねているのでね。そら昔は流せていた面白い番組も流せなくなるとか、「これがダメだったなら、あれもダメなんじゃないか…?」とか考え出されちゃってお蔵入りするとかありますよね、って話で。まあ一応書いておきますけど、放送を止めてほしい人が「放送やめろ!」ってクレーム出すことはあっても、放送を面白いと思った人が「放送面白かったよ!」って電話することなどないですからね。そらクレーム側だけ言うこと聞いて、後者の言われてない意見を無下にしたらつまんなくなりますよ。よく「TVがつまらないと視聴者は言うが、TVをつまらなくしたのは視聴者のクレームだ」なんて言ってる人もいるが、視聴者なんて広くくくるな、と思う。クレーム出す視聴者と「今のTVより昔のTVの方が面白い」という視聴者が同一人物なわけないんだから。

 

4、コンプラを破ろうとするから

先ほどと矛盾しているが、コンプラを破ろうという意思もまた一つの邪念なのではないかと思う。先述の通り、今のTV番組というのはコンプラと自粛のセットにより大変萎縮しており、息苦しい。この息苦しさの中で流行ったのが坂上忍梅沢富美男と言った(的を射ているかは別として)本音をズバズバ言う人々である。しかし、彼らを批判する声もまた大きい。俺も嫌いだし。

そもそも、コンプラを破る、すなわち法令遵守をしないというのは簡単でコンビニのアイスケースで寝そべるとか一般道を時速150キロで走り抜けるとかでもいい。じゃあ、「コンビニのアイスケースに入ろうTV」とか「一般道を時速150キロで走り抜けようTV」とか作ったところで「それ、面白いか?」という疑問が出て来る。まあ、ここまで言えばわかるだろう、コンプラを破ればいい番組ができると思ったら大間違いである。

さて、ここで大昔のめちゃイケの面白かった企画*6の話をしようと思う。その企画の名前は逃げろ100万円岡村隆史が100万円を自前で用意し、街行く人に肩を叩かれないようにしながら(もし、肩を叩かれたら1万円払う)、大阪からお台場を目指す(なお、岡村隆史がお台場まで逃げ切った際持っていた金は2倍になるというルールもあったため、50万円以上残してお台場に来れば岡村隆史側が得をする。あと交通費は多少支給される)企画である。この企画そのものはコンプラに反する部分はない。100万円は岡村の金だが、一応岡村はルールに同意しているし、「お金を他人にあげてはいけない」などという法律もない。交通費は支給されるので、電車賃をケチってキセルするなんてこともない*7

しかし、コンプラの観点、つまり「法律守ってるか?」という部分でアカン部分はあった。というのもこの企画の面白さが「岡村隆史がお金に必死になって逃げまとうサマ」なのは言うまでもないが、必死になるあまり法に触れた逃げ方をしているシーンも散見されるのである。例えば、「『岡村隆史の肩を叩いて1万円もらおう!』というポスターを大阪→お台場の逃走経路に多数貼っていたが、名古屋にはそれを貼らない」という手法で作られた安全地帯名古屋のバスの中のシーン。岡村隆史は名古屋の中継車の中でしばし休憩をする。しかし、休憩が終わるとすぐにオーロラビジョンに「岡村隆史の肩を叩いて1万円もらおう!」と表示される。当然、街の人々は中継車に釘付けとなり、中継車の扉は完全に囲まれてしまった。そこで岡村隆史はドアと逆側の窓から飛び出し、横断歩道でも何でもない車道を渡って逃げて行ったのである。完全に道交法違反であるが、彼が犯した道交法はこれだけでなく、彼はフジテレビからお台場のゴールまで移動する手段として車のトランクに乗って駐車場から出るという荒技を披露*8

しかし、これを見て少なくとも自分は「コンプラ破ってんな。」とは思わなかった。じゃあどう思ったかと言うと「この企画面白いな」と思った。そう、コンプラを破るから面白いのではなく、面白いものの中にはコンプラを破っているものもあるというだけなのである。だから、コンプラを破っただけでは何も面白くない。このことに気づかず、ただコンプラを破って車を壊したりしているようではそらクレームも来ますよ。というか、ヤラセだろうがコンプラ破っていようが、「おもしれーwww」って視聴者を笑わせられているうちはクレームなんぞ来ないと思う。もっとも、全ての視聴者が、面白いと思うコンテンツを作るのは難しいというか無理なのだが…。

 

 

5、TVがつまらない理由をみんな知っているから

さて、ここまで今更言うでもないと思って流し気味に言ってきたが、TVがつまらなくなった根底には「視聴者からのクレームとそれに伴う萎縮」があるのは言うまでもない。ここで重要視したいのは「TV局が萎縮しているという事実をみんなが知っているという現状」である。こう書くと俺だけ俯瞰できてるみたいでカッコいいでしょ?

視聴者みんなが「TV局が萎縮をしているからTVがつまらない」と知っているとどうなるか?まず、面白い人ほど「TV局入ってプロデューサーになっても面白い番組は作れない」と考えるので、TV局に面白い人は入らなくなる。すると、TV局にはつまらない人しかいないのでつまらない番組しかできなくなる。そして、つまらない番組を見た次世代の面白い人が「TV局入ってプロデューサーになっても面白い番組は作れない」と考えるので…と、悪循環が成立する。この循環はこれからどんどん回っていき、そうなれば今度こそ本当にTVは終わるのではないか

 

6、まとめ

書きたいことは書いたのでまとめに入る。TVがつまらない理由は

 1、ガッツリ見ようが流し見だろうが視聴率が同じであれば、万人が流し見するものを作った方が視聴率は良くなるから。

2、新しいコンテンツより、時に内輪ネタとなるレベルまで古いコンテンツを煮詰めた方が視聴率は良くなるし、クレーム対策にもなるから。

3、新しいコンテンツを当てるために強引にテロップやナレーションで煽るから

4、コンプラで萎縮する一方で、無闇にコンプラを破ろうとするから

5、面白い人がTV局に入る意味がないから

と言ったことが今回の文章に書いてあったりなかったりする。今こそ、クレーマーに屈さず新しくて面白い番組を作って、流して行く勇気がTVに必要なのではないだろうか。

 

 

 

 

しかし、鬱陶しいテロップやナレーションもなく、人を傷つけない笑いで、内輪ネタもなく、それでいて面白い番組って何かねえのかなあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

http://www.yuyushiki.net

 

あったわ*9

(おしまい)

 

*1:三四郎とかおかずクラブとかがこの番組の「この若手知ってんのか」という企画から世に出ている

*2:録画率、みたいな統計があるとも聞いたことあるんですが詳しい人は教えて

*3:ハライチの岩井が「TVなんて30点の笑いも多い」「30点の笑いを100点だと思ってる芸人が売れる」「芸能人が自分の子供を本当に可愛いと思っていたらブログに顔をUPするはずがない。金のために決まってる」など様々な名言を作り上げた回。インパルス堤下イジリのイジる側の役をMC等に取られたインパルス板倉の「作り手への敬意が全くねえな、TVって」なども名言。

*4:というかコンテンツを芸人が作っている例も多い

*5:このネタ、というのも同じネタを延々とやっている例が少なくないのが悲しい

*6:Q、そんなの配信もしてないのにどうやって見たんですか?A、聞くな

*7:公共交通機関を使うと見つかりやすい、という理由でトラックをヒッチハイクした部分はあった

*8:道交法によると「車両の運転者は、当該車両の乗車のために設備された場所以外の場所に乗車させ、又は乗車若しくは積載のために設備された場所以外の場所に積載して車両を運転してはならない。」とあり、要するに「椅子に荷物載せてもいいけど、トランクに人なんか載せんじゃねえ!人は椅子に座れバカ!」ということ

*9:深夜アニメとゴールデンのバラエティの関係性については「http://ithikawa.hatenablog.com/entry/2017/09/24/212202」の記事でも言及されているぞ