思考力を問えているセンター試験数学を懐古しよう

  • まえがき

2020年1月18・19日最後のセンター試験が終わった。来年からは共通テストという入試システムに改革されるという。

センター試験が廃止される理由は「思考力を十分に問えていないから」と言うのはあまりに有名である。しかし、センター試験が思考力を問えていないかというとそんなことはない、はずである。

そこで、今回はセンター試験数学において、思考力の問えていたはずの問題を単元ごとにピックアップし、懐古していこうと思う。ルールは以下の通り

・対象となるのは1998-2019年、つまり全てのセンター試験。ただし、昔の問題ほど記憶が薄くなるのはご愛嬌。

複素数平面、統計など、オルソンが履修してない単元は対象外。

・追試験も対象外。なお、一般に追試験の方が難しい模様。

 

  • ネタバレを防止するための一覧

数と式…2011年

集合・命題と論証…2012年

二次関数…2019年

図形と計量(三角比)・初等幾何…2010年と2016年

場合の数・確率…2014年

整数…2019年

指数対数関数…2017年

三角関数…2012年

微積分…2008年

数列…2015年

ベクトル…2005年

 

 

なお、当該の問題を見たい方はこちらをご覧ください

http://mathexamtest.web.fc2.com/daigakubetu/10000index.html

 

  • 数と式

数と式、センター数学全体のウォームアップ的な部分も少なくなく、こんなところで難問出しても仕方ないのだが2011年はなかなかいい問題。「対称式」と「絶対値」と言うこのころの数学の花形をしっかり問いに行く姿勢がたいへん意欲的でよろしい。

 

  • 集合・命題と論証

数学としては珍しく記号の問題で、配点もさほど高くない反面、9-10割を目標とすると意外と壁になりがちな単元。この単元からは2012年を推す。

とは言っても「または」が入っている時にはアレを使うという、定型的といえば定型的な問題だが…。いや、定型的だが証明の大事な考え方なのでしっかり問うのはありだろう。kの値によって命題が変化するというのも面白い。

 

  • 二次関数

はっきり言って高校数学において平方完成できないのは「終了」を意味すると思っている。のちの、三角関数指数対数関数など他の関数との融合問題や、他分野において最大最小を求めようとした結果二次関数となる問題は少なくないからだ。

一方、センター試験において「二次関数」というと二次関数単独での出題が多い。これは、基礎レベルの勉強ができているかを問うという目的に対して非常に妥当と言える。

そんなわけで、難易度を上げにくいこの分野において「文字を増やす」という安直だが刺さるとこには意外と刺さる技で難易度を適度に上げてきたのが2019年だ。

分量はそう多くない*1が、文字係数2種類の平方完成を要し、そこから「点を通る→代入」というヒントのわかる人だけ感が巧い。難易度は高くないが、だからこそ良問と言える問題である。

 

  • 図形と計量(三角比)・初等幾何

2006〜2014年までの「旧課程」においては、融合問題となりがちだった単元。1998〜2005年および2015〜2020年は初等幾何が数学Aの選択単元であったため分断されている。個人的なオススメは2010年2016年(2単元なので2枠選出しています)。

まずは、2010年から。2006〜2014年のセットにおいて、最初の問題は「ただ余弦定理か正弦定理の公式に代入するだけの問題」が多かった。基礎を問う問題は大事だが、これではセンター試験は思考力を問えないと言われてもむべなるかな…といった印象である。が、しかし、2010年の特徴は、余弦定理を当てはめたら出そうな空欄はあるが、どこにもcosが書かれていないことである。ではどうやって出すのかというと「直角三角形」という前提からcosの定義を利用する、というもの。センター試験でありながら、公式や解法のみを暗記せず、定義に立ち返ることの大切さを教えることに成功している意欲作だ。

その後も、平行線を見つけ出して相似を作るなど、高い図形力を要求される。この年のセンター数学IAはあまりの平均点の低さで悪名高いが、思考力を問うという意味では成功している。

2016年は思考力を問うことと他の問題の物量との兼ね合いにおいてちょうどいい難易度と言える。最初こそただ正弦定理を当てはめるだけだが、次の空欄では余弦定理に合わせて方程式を立てるという若干のひねり、そして後半は円の周上を点が動くイメージを適切に持たないと解けない。

 

  • 場合の数・確率

センター試験においては書き出した方が解きやすい問題が多く、PやCと言った公式は使うまでもなかったり、使いものにならなかったりすることが多い。条件を把握し、適切に数え出すのは意外に時間がかかる。意外と難しいことで有名なのは、2003年の立方体の問題だが、ここでは2014年を推しておきたい。

 

 

  • 整数

大京大で毎年出題されるなど、難関大学では頻出問題でありながら長らく指導要領になかったという不思議な単元。「考えたらわかるでしょ」という意図で出題しているのだろうが、その結果、学習塾の整数問題対策が進み、教育格差が生じた。そこで2013年からは選択分野という形ながら指導要領の仲間入りを果たし、センター試験にも出題されることとなった。

センター試験に整数は相性が悪い部分もあり、実際、定型的な不定方程式かn進法の問題が多かった。そんな中で2019年は凄かった!以前も書いたが、もう一度記録しておきたい。良いものは何度見ても良い。

序盤こそ定型的な不定方程式だが、3つの自然数の積は6の倍数という有名事実の確認を経て、「6762の倍数」という途方もないところまで連れて行ってくれる。センター試験で誘導形式が批判されることは少なくない。しかし、「ゼロから問題を解き、論証する力」が学力であるならば「前問で得た答えを利用して問題を解く、いわば誘導に乗っかって遠くへ行く力」もまた学力であることを忘れてはいけないと思う。

 

  • 指数対数関数

順番の変化や、2013・2014年の番狂わせはあれど、基本的センター試験数学ⅡBの大問1は指数対数関数と三角関数のハーフ&ハーフである。また、大問2以降は、微積分→数列→ベクトルと続く。これが2006年からのスタンダードだ。しかし、数学ⅡBの範囲は広く、以上の5単元では「式と計算」や「図形と方程式」などをカバーしきれていない。これらの単元は一見センターと無関係に見えるかもしれないが、実際には2010年の三角関数や2013年の指数対数関数のパートは高次方程式を使わなくては解けないなど、融合問題としてゲリラ的に出題されることがしばしばある。2017年もそういった問題の一つ。「座標と指数関数のグラフの融合」というあまり見慣れない設定でも、とりあえず手を動かすことの大切さを教えてくれる良問だ。2009年と少し迷ったが……どちらもいい問題ですよ、ええ。

 

三角関数、様々な式変形をこなして答えを出すという公式の多い単元であり、暗記ではなく加法定理から自作することで習得する力が求められる。

三角関数の問題でも、2008年や2005年に座標との融合問題が出ているが、この記事では「安易な図形との融合を思考力を問う問題に認定しない」という逆さ張り基準を行なっている*2。ここでは後述する2015年とも迷ったが、2012年を推しておきたい。

この年の三角関数では公式が大量に出題されていない。解説を見ると後半は一次関数の様相を呈している。しかし、誘導は控えめで、三角関数の基本に立ち返ったアイデアや数学の根本に立ち返った「解の一般化」といった技術を要求される。こんなに解説見る前と見た後で難易度の印象変わる問題、そうそうないぞ。

 

「1/6公式」というあまりに便利な公式があることで知られるが、センター試験では意外と使えないようブロックが硬くなっていることでおなじみの単元。計算量が多いが、計算さえすれば点が取れる単元でもあり、ここの計算の速さがセンター数学ⅡBの得点力に直結する。

そんな微積分からは2008年を推しておきたい。単なる計算のみならず、図形がどういう動きをするかを誘導に沿って想像すること、場合分けこそ示唆されているが、全ての場合を計算せずとも最後の答えは出ることなど、中高の数学で大事な考え方が目白押し。こういう考え方は暗記じゃなくて練習しないと身につかないぞ!

 

  • 数列

センター試験の数列は癖がある気がする。漸化式の変形が誘導通り乗っかれれば良いのだが、その変形を読み解けないと空欄が埋まらない。そういう意味でセンター数学の最も悪い部分が出ている分野であると思う。2013年は数学的帰納法を出題するチャレンジ精神を見せたが、証明の穴埋めが結局単なる式変形に過ぎなかったのもまた事実だ。そんな中で一際異彩を放っているのが2015年である。この年のセンター試験は凄い。何しろ平均点38点だ。「図形と融合した上に7倍角の三角関数」、「文字の多い指数対数」、「定義に従った微分の出題」*3など全分野がセンターにしては難しい問題を出題。もちろん時間は延長されないので、完答は至難の技である。

そんな、2015年のセンター数学ⅡBは数列とて例外ではなく、整数問題との融合問題を出してきた。単なる式変形ではなく、整数問題慣れしていないと思いつくのは難しく、これを12分で解かせようとするのであれば頭がおかしいが、私大の入試だったら結構アリな気はする。じっくり取り組むのにはいいんじゃない?センター数学なのに。

 

  • ベクトル

思考力を問うことと「センター試験のベクトル」というのははっきり言って相性が良くない。ベクトルというのは図形を計算で解析するための手法であるため、どうしても計算ゴリ押し問題が出来てしまいがちである。「ベクトルの問題でなさそうな図形問題がベクトルを使うと簡単」となるのが、思考力を問うベクトルの問題の出し方であると思う*4が、そういう問題をセンター試験形式で出すのは難しく、マーク式試験の限界がここにあると言わざるを得ない。

そういう意味では、2008年なんかは面白いが、定型的な問題といえば定型的な問題である。そんな定型的な問題と一線を画すのが2005年である。

変な図が印象的な回であるが、問題文を読むとすでに座標平面に置いてある。そこから問題文をじっくり読み解けば意外と難しくない。この「意外と」が曲者で、案外そういうところが差の付く要素だったりするのだ。センター数学でも読解力は鍛えられるぞ!

 

  • 2020年のセンター数学について

IAについては、良問度ではかなり良かった気がする。大問2〔1〕の解の吟味が斜め上から来たり、大問4の整数問題だったりはなかなか面白い。ただ、去年が良すぎたのでそこよりは一歩劣るか。大問1〔2〕や大問3、大問5の後半がよくある問題なのでそういうところでどれくらい稼げるかが勝負な気がする。

ⅡBについても間違いなく良問なのだが、あれもこれも聞こうとしすぎて計算量がいつにも増してとんでもなかったような気がする。大問1は三角不等式+三角関数二次方程式+指数の対称式+線形計画法*5と、事実上4問分の量がある。もちろん、難易度が調節されているため例年の2倍とはならないが、誘導に乗っかるシステムではないので出鼻を挫いてくる。大問3も誘導丁寧とはいえ、二次私大っぽい漸化式の変形、階差数列を通して数列の和を2種類同時に問い、最後に剰余の周期算となかなかの物量ゲー。大問4もルートの計算や処理に慣れていないと厳しめ。60分でⅡBで思考力まで問おうとするとこうなっちゃうんだよな。平均点は49.03。意外と低くもないな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

  • あとがき

共通テストで出るとされてる会話文に穴埋めする奴って誘導形式だよね〜

 

 

(おしまい)

 

*1:2015年以降、数学Ⅰに統計が加わったことなどにより、分野が増え、一分野あたりの分量は減った

*2:2008年数学IAの数と式や2013年数学IAの二次関数や命題と論証などがこの基準により落選

*3:定義に従った微分そのものが知識の穴であることもさることながら、この出題により大問2の分量が単純に増えている

*4:国立大二次数学ではあまりにあるある。

*5:2009年に類題が出題されている