平成最後のセンター試験数学IAの誘導が綺麗すぎる話

どうも、こんばんは、オルソンです。

 

 

そろそろ、2/25。国立大学二次試験でございますね。受験生の皆さん頑張ってください。オルソンブログ は夢に向かう受験生を応援しております。

 

そんなわけで、国立大学の入試には一次試験がある。この一次試験はセンター試験と呼ばれており、今年は1/19〜1/20に行われた。センター試験で5教科7科目*1の基礎的学力を確かめた後に各々の国立大学で二次試験が待っている、と言うのが通常の国立大学受験の流れである。

そんな、全国の高校3年生*2の基本的学力を日本政府が推し量るまたとないチャンスでもあるのがセンター試験なのである。なお、「このセンター試験マークシート式で思考力が問えるはずがない」という理由で2021年には終了することが確約されている。しかし、センター試験マークシート式なりに思考力を問えるようにしてきたのは事実。今回はそれを平成最後のセンター試験こと2019年数学IAで確かめようと思う。え?数学ⅡB?あれはダメです。ダメな例です。誘導丁寧すぎ文章長すぎ文章長いから埋める空所の物量多すぎ計算スペース少なすぎ、それでいて誘導乗ってしまえば勝手に手が動くという思考力もクソもないという割と悲しめの回でした。「あんなもの数学じゃない、数学風だ」と全国の数学教師が腐り数学教師になっているというウワサを聞いたことがあります。まあ、センター試験数学ⅡBには2015年に、三角関数で7倍角を出したり、数列を整数と融合させるなど思考力を問おうとしすぎた結果平均点が39点になるという悲しい事件があったし、そもそも「平均点6割くらい」というコンセプトなのに、50点代前半であることが常態化していたので、これくらいでちょうどいいと思ったのかな、と思ったら平均点53点でした。三角関数でf(0)出させたり、微分の初っぱなでしょーもない連立方程式解かせたりと無駄に物量多くするからこうなるんだバーカ!簡単な問題でも量あったら時間内に解けないっていい加減学べバーカ!

というわけでセンター試験数学IAのみ振り返ることにする。あ、そうそう。言い忘れていたけど、この記事の作者は旧課程老害ニキなので、第2問〔2〕の統計は省略とします、さようなら…

 

  • 第1問〔1〕

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最初は絶対値つきの一次方程式から。「絶対値記号をつけて場合分けさせようスペシャル」は数学でありがちな題材だが、特筆すべきは前半。いわゆる「4の平方根は2だけではない、-2もそう」「ルート3の定義は『3の平方根』ではなく『3の正の平方根』」という事実を下地に問題が作られており、やや盲点をついた感じになっている。こういうセンター試験らしさはいいな、と思う。真数条件を初っぱなに気づかせてしまう数学ⅡBとはえらい違いですね。

この後は定石通り場合分けをすればいいのだが、この場合分けの境界こそ出題しておいてもよかった気がする。ただ、統計が増えた結果、旧課程より数学Ⅰの分量は上がっており、今年は後述の数学Aが3問中2問難しいので、ウォーミングアップを兼ねた第1問〔1〕はこれくらいでちょうどいいのかもしれない。

 

  • 第1問〔2〕

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ここは命題と論証。不等式、有理数無理数、図形の性質など様々な分野と融合し、意外と難しい部分とされる。今回の問題は「整数」。ギリギリ数学Aに抵触している気がしないでもないが、奇数偶数の和が奇数か偶数か、くらいは中学数学というスタンスか。ここではシとスが命題と論証のパズルっぽさがあって少し好き。セ〜タはよくある問題だが、整数特有の思考力を問うという意味ではこちらもなかなかいい問題。

 

  • 第1問〔3〕

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センター試験の二次関数においてxではない文字定数aを含んだ二次関数が出題されることは少なくない。しかし、文字定数が二種類となるとなかなかないような気がする。ちゃんと調べてないけど。

もちろん文字定数の種類が増えたからといって頂点の求め方に変化はなく、係数が1であるところは書いてある*3ので計算ミスしたら気づきやすい。

このあとの展開がなかなかいい。aやbの値を直接出さず、(-1,6)を通る、としているところがいい。「通ると言ったら代入」という思考を素直に身につけた素直な学生の勝利だ。bがaの二次関数になる展開も含めてよくできた二次関数の問題だと思う。最後はセンター試験がなぜか大好きな放物線平行移動で〆。

 

  • 第2問〔1〕

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センター試験には裏技というのがある。マークの形が桁数であるため、入れる数字がわかりやすいということだ。このような裏技の多くは「そんなものを覚えるくらいなら、まともに勉強しろ」と言いたくなるものが多いが、よく学びよくセンターの練習をした人であればアイウより先にエが埋まることは気づけるだろうか?証明は以下の通り。もちろんセンターで証明を書く必要はなく、以下のことがイメージできればいい。というか、イメージしなくてもいい。

アイ/ウが正の数である時、アイは2桁の自然数、ウは1桁の自然数なので

アイ>ウ

となる。この両辺をウで割ると、ウ>0より

アイ/ウ>1

しかし、アイ/ウはcosBACなので、1より大きくなることはないので矛盾。

よってアには「−(マイナス)」が入り、アイ/ウ<0より、BACは鈍角となる。

後半はcosの定義をそのまま使うというこれまた盲点をついた出題をしている。もっとも、2010、2013にも類題は出題されているのだが…。

なお、BACが鈍角であることは単なる小問ではなく、それを誘導にしないと正確な図が書けないシステムとなっている。図形の把握さえできれば、計算はいらないという問題構成が潔い。

 

  • 第3問

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今年のセンター試験唯一の汚点、それはこの確率の問題だろう。一部では「確率漸化式の出題」と騒がれた。確かにn回目に引く時の確率がn-1回目に起きた事象によって変わるので、漸化式が出てくる展開ではあるし、問題用紙にメモする場合も漸化式だけ立てておくとやりやすくなる。

そんな数学IAの試験なのに数学B履修者の方が有利なのはどうかしてるといえばどうかしてる数学の問題だが、この問題の汚点はそこではなく、一般化できない(一般化すると本当に漸化式を解く数学Bの試験になるから)ために計算が煩雑になっていることだ。事象が複雑で計算も煩雑、そんなこの問題を得点比の単純計算では12分で解ききらなくてはならない。コサ/シスセ→ソタチ/ツテト辺りで問題作ってる方もアカンやつって気づかなかったのかな。気づけよ。ただ、ソタチ/ツテトを見た時点で「ヤバそう…」と思って逃げた受験生は正解と言える。

ただ、そんな受験生の陰には、後述の第4問、第5問こそ面白いのに、この面白くない問題によってその選択が阻まれた受験生がいることも忘れてはいけないと思う。あとこの問題、面白くないし。選択問題では難易度も面白さもどうにか平等にしてほしいものだ。

 

  • 第4問

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センター試験に整数問題が出題される、すなわち指導要領に整数が加わったのは2015年*4からである。そのうち本試験で不定方程式が出題されたのは2016、2018、そして2019。全てax +by型(ユークリッドの互除法ほぼ必須)である。1年おきというジンクスは破壊してきたが、対策自体はしているはずだ。というわけで、カキまではよくある不定方程式にすぎないが、ク以降がよくある不定方程式を元に面白い事実を導き出させようとしてくれる。「49の倍数Aと23の倍数Bの組で、AとBの差の絶対値が1になるもの」という謎の操作が始まる。しかし、これはカキまでの不定方程式の捉え方を変えたものにすぎない。そのため謎の操作の意味さえわかればク〜コは計算なしで導ける。

サ〜スも自分で不定方程式49x-23y=2を立てれば済む話なのだが、このままでは謎の操作が謎のまま終わってしまう…。

さらに謎の問題は続く。n(n +1)(n +2)に関する問題だ。nとn +1の最大公約数が1であることと、n(n +1)(n +2)が6の倍数(いうまでもないが、ソの答えが6)はもはや暗記推奨である。なぜか、整数が指導要領に入る前の2005年の東大文理共通問題でもそれを使う問題が出ているので…。

この次は6762の素因数分解だ。このままだと、不定方程式→連続整数の積→素因数分解と整数の基本をつまみ食い的に確認しているだけになっており、あまりの傾向変化に慌てた受験生もいたかもしれない。そんな慌てた受験生に優しい形の空欄となっているのがこの6762の素因数分解だ。素因数分解はあまりの難しさから、コンピュータの暗号として使われている*5ことでも有名だが、我々人類は「各位の数の和が3の倍数ならその数も3の倍数」「末尾2桁が4の倍数ならその数も4の倍数」などの倍数判別法でその難しさに歯向かってきた。しかし、7の倍数には倍数判別法がない*6。そんな、7だけは最初から提示しておくのはセンター試験の優しさに他ならない。しかも、7の上にはチという小さい空欄もある。このことと、「チに1は入らない」というセンター試験ローカルルールから、「6762は49で割り切れる」ことが瞬時にわかるのだ。そして、もう一つ最初から出ている2と合わせて、6762を98で割ると、69という非常に素因数分解しやすい形になるのだ。めでたしめでたし。

ここまできたら最後の空欄トナニ。ここで、(1)で導いた「49の倍数と23の倍数で差が1か2になる状態を作る操作」、(2)で導いた「n、n +1、n +2はどれかが2の倍数でどれかが3の倍数」「nとn +1は1以外の公約数を持たない」、(3)で導いた「6762は49と23の公倍数の一つ」という事実の集大成、それがトナニなのです。n、n +1、n +2のうち7の倍数は2個以上ないので、どれかが7の倍数ならそれは49の倍数、そしてnが49の倍数である時、n +1かn+2が23の倍数になる例は(1)で出しているから…と伏線がどんどん回収されていく面白い問題だ。面白い問題だが、センター試験としてはやや難しいかもしれない。誘導をなくした類題が先述の2005年東大の問題なので。

 

  • 第5問

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最後の問題は「図形の性質」。あくまでも図形の性質の問題なので、最初から角BACのcosとsinが提示されている。自分がセンター試験を受けた時の課程では整数と統計がない分図形の性質は必修で、選択問題になることも隔離されることもなかったため、最初は三角形に余弦定理や正弦定理をあてはめてれば解ける三角比の問題だが、途中から円周角の定理や方べきの定理を使うという、数学IA融合問題が出題されていたものだ…と、老害はただただ自らを懐かしむ。ただ、エオカキを出すには余弦定理が必要なので、この考え方は間違っていない気がする。また、内接円の半径を出すのには△ABCの面積がほぼ必須だが、そういう誘導はないので気をつけよう。

この大問で面白いのはクケ→コ→サシのコンボだろう。三角形の頂点から対辺に直線を2本引き、残りの頂点から引いた直線はその交点に当てる…ということでクケ→コは典型的なチェバの定理の問題ということになる。…が、コの値が BDと全く同じになることで事態は急変する。そう、点Qは点Bから△ABCの内接円の接点までの長さに等しいため、点Qは△ABCの内接円の接点だったのである!というところまで来れた人はサシをノー計算で埋められる。おめでとう。ちなみに、三角形の頂点から、対辺におけるその三角形の内接円の接点を結んでできる3本の直線は一点に交わることが知られており、この点をジルスチュアート点というらしい。かっこいいですね、ジルスチュアート点。上野の森美術館で開催していた気がしますジルスチュアート展。

このジルスチュアート点に関する問題、これはセンターでの図形の性質を語る上で外せない。というのも、2005年以前のセンターの図形の性質は「証明の空所補充」であった。証明を作った人が何をしたいかを、本文に書かれている定理から考えれば取れるは取れるが、解いていて奇妙な感覚のある問題だった。しかし、この問題ではQと内接円の接点の一致を証明ではなく問題を解いているといつのまにか証明できている、という形で提示している。そして、そのメッセージを読めたものには点数をプレゼントする、サシの空欄も粋だと思う。

最後のスセソは図形の性質特有のひらめきを要する、なかなかの曲者問題。時間制限に焦るとそれどころじゃないけど、なかなか面白い問題ではある。

 

  • あとがき

いかがだっただろうか?センター試験の数学は誘導が多く、数学特有の思考力を問うことができない試験であるという批判がたびたびなされていた。その結果がセンター試験の廃止→記述式問題を含んだ「共通テスト」の導入、を生んだのだろうが、今年のセンター試験数学IAは、「マーク式でも思考力は問える」、「誘導に乗れるかどうかも、数学的思考力のうち」と言った主張を問題文から感じ取れるものとなった。平均点は数学IAとしては珍しく60点を下回ってしまい、先述の目標を達成できなかったことになるが、これは今年のセンター試験が付け焼き刃で高得点取れないものだったという証とも取れる。共通テストの導入が本当に思考力を問うものになるのか?それは歴史が証明することだろう…。

(おしまい)

*1:英語、数学IA、数学ⅡB、国語、理科社会はどちらかが1科目でもう一方が2科目

*2:アンド浪人生

*3:大学によってはマーク式なのに係数1を答えさせるところがあるので気をつけよう!

*4:指導要領に整数が加わる前から「考えればわかるから」的な理由で大学入試に整数問題は出題されており、命題と論証やコンピュータの大問などではセンター試験とて多少は整数問題が出ていたが。

*5:詳しくはRSA暗号、でググろう!

*6:正確には倍数判別法のスマートな簡略化が困難