ベタな笑いってどこにあるんでしょうか?

最近のお笑いは…いや厳密に言えば最近もお笑いは進化している。お笑いはどんどん先鋭化し、シュールで新しいお笑いがあらゆる芸人から生産され、先日のキングオブコントだとかを通して我々の家にもやってきて、審査員に評価されるとそこからもっとTVに出たり出なかったりするのである。

お笑いでシュール系や先鋭的なものが審査員に評価され、我々の家に届くのは大変素晴らしいことだが、そんな世の中に足りないものがある。それはベタな笑いである。読者の皆さんのなかには、会う人会う人に「さらば青春の光はいいぞ^〜」と気さくな挨拶を繰り返し、「わーい、おいらは天竺鼠大好き少年だよーん!天竺鼠って最高だよね!」という独り言を大声で言ったことも数知れず、またある時は「マックで隣の女子高生が『ガンバレルーヤがさ〜、Aマッソより売れたら、もうお笑いおしまいだと思うんだよね〜。』って話したらもう一人の女子高生が『わかる〜!Aマッソいいよね〜!加納がへその緒の使い道を視力4.0の彼氏が最近できたっていう村上に考えさせるネタとか最高だよね〜!』って答えてて、女子高生のお笑いを見る目も捨てたもんじゃないなって思った」という大嘘を50000回くらいついたこの私が「ベタな笑いが足りない」なんて言い出すとは信じられないという人もいるだろう。さらば青春の光って先鋭的な方に入るんですかね?誰か教えてください。何せネタの面白さに反して売れていない理由が先鋭的とかそういう問題じゃないところにあるから…。それはそうと、私にもベタな笑いが欲しい時というのはある。安心感ありますからねベタは。ベタってのはそれはそれでいいんですよ、やっぱり。え?「自分がベタな笑いが足りない」ではなく「世の中にベタな笑いが足りない」って主語を大きくしてる理由?それはこれから説明するよ、うん。

最近、ネタ番組というのはとかく少ない。そうなるとネタ番組ではない番組が多くのバラエティを占めているわけだが、これが、メシとか健康とかネットで話題とか芸能とかそういう情報を盛り込んだ番組が多く、まっすぐに笑いを取りに行くバラエティは少ない。もちろん、情報が笑いを押し出しそうになっても、テロップとナレーションとSEを入れて強引に笑いどころを作るという画期的なアイディアを思いつく敏腕プロデューサー様は腐るほどTV局にいるのだが、その結果テロップとナレーションとSEを盛り込んでいないバラエティというのは皆無である。もちろん、テロップもナレーションもSEも効果的に使えば面白いものをもっと面白くすることができるはずだし、全くないバラエティというのもそれはそれで味気なさすぎるというのはある。その辺は、まあ、要はバランスって話である。

つまり今のTVのお笑いを整理すると「テロップやナレーションを過剰に盛って笑いどころを強引に作ったり、説明したりしている偏差値1向けバラエティ」と「お笑いブームが病める時も健やかなる時も劇場とかいう空間で勝手に先鋭的に進化してしまった芸人のネタ(を流す番組)」の二極化が進んでいるということである。もちろん改編期の特番でのネタ番組ではサンドウィッチマンを筆頭に中堅芸人がベタな笑いをやることもあるが、その下の世代はどっかしらでセンスや個性を見せたお笑いをやっているはずである。普通にボケツッコミの漫才やコントじゃサンドウィッチマンに勝つのが難しすぎるもんな。

そうなってくると「お笑いに新規ファン来ない説」という問題が浮上してくる。普段、TVをつけると「テロップやナレーションで笑いどころを強引に作ったり、説明したりしている偏差値1向けバラエティ」しかやっていないから「TVはつまらない」と切り捨てる層が、ちょうどネタ番組の特番の日に偶然TVをつけてそこから新規でお笑いにハマるというのは考えにくい。また、「テロップやナレーションで笑いどころを強引に作ったり、説明したりしている偏差値1向けバラエティ」しか見ていないかそれすら見ていない人がお笑いの賞レースで先鋭的でシュールなネタを見て笑えるだろうか?審査員から高評価である理由がわからず「こんなもんヤラセだ」と憤慨してTVを消すのではないか?そんなわけで新規のお笑いファンがTVからやってくることはない、という状態ができつつあるのではないか。もっとTVって夢のあるマスメディアじゃなかったのか。

自分がお笑いにハマった理由を考えるとつくづくあの頃は良かったと思わざるを得ない。私がお笑いにハマったきっかけは小学生の頃に見た「エンタの神様」である。エンタの神様というとカスみたいなリズムネタ芸人がカスみたいなリズムネタを大量生産していたカスみたいな番組というイメージを持つ人も多いが、実際にはアンジャッシュやインパルスや東京03陣内智則に最初にゴールデンの地上波でネタを披露する機会を与え、売り込んで行った番組でもある。もっとも、アンジャッシュもインパルスも東京03陣内智則も最初に地上波に引っ張り出したのは、NHK爆笑オンエアバトルという深夜番組なのだが、そんな深夜番組を知る由もないオルソン少年は、エンタの神様を齧り付くように見ていた。この後、エンタの神様は先述のカスみたいなリズムネタの割合が増え、衰退し消滅する。この段階でエンタだけでなくお笑い全般から離れた同級生は多かった気がするが、自分は中高生になると別のネタ番組を見ていた。その番組の名は「爆笑レッドカーペット」。ネタ時間が1分なので出演する芸人が多く、今思えば、いや今思わなくても玉石混交すぎる番組であったが、この番組においてコントで結果を残した者は「爆笑レッドシアター」というネタ番組のレギュラーとして、3-5分程度の尺のコントを披露することになる。当時ははんにゃとフルーツポンチが人気を席巻していたと思うが、個人的にはジャルジャルに惹かれまくっていた。ボケツッコミの明確な境がなく、一つの設定やボケを延々と引っ張る、いやもっと言えば引っ張るに値する設定やボケを持ってくる彼らの先鋭的なコントに自分は刺激されまくったのである。そして、爆笑レッドシアターと同じ頃に見出したのが「キングオブコント」だったのである。本当は2008年からやっていたのだが、リアルタイムで見出したのは2009年からだった。

ここで私は「食堂でほのぼのした会話を喧嘩腰で続けるコント」*1とか「オバハンにオバハンと言い続けるだけのコント」*2のようなもっと先鋭的なネタを見せつけられることになる。このブログでも度々書いているがキングオブコントの準決勝の審査員は今も昔も先鋭的でシュールで視聴者がついてこなさそうなネタを何の躊躇いもなく決勝にぶち上げてゴールデンタイムに全国ネットで映してしまう頭がおかしい人たちなのである。そしてこの先鋭的なコントでは当時の自分は笑えなかったと記憶している。年々お笑いを見ていくとか他の人たちのキングオブコントの感想文を読むとかして、ここ数年でやっとキングオブコントの決勝に自分が追いついたと言ったところである。

結論を言うと自分は、エンタの神様爆笑レッドシアターキングオブコント、と着実なステップアップによって「先鋭的なお笑いを鑑賞できる古参」になったのであるが、今は先鋭的なお笑いをいきなり見ては新参にもならずに帰って行く人が後を絶たない。つまりエンタの神様」や「爆笑レッドシアター」のようなちょうどいいベタさのあるネタ番組が、特番ではなく毎週あれば、キングオブコントで頭のおかしいコントを楽しめる人々がもっと増える…はずなのだが、「テロップやナレーションを過剰に盛って笑いどころを強引に作ったり、説明したりしている偏差値1向けバラエティ」と「お笑いブームが病める時も健やかなる時も劇場とかいう空間で勝手に先鋭的に進化してしまった芸人のネタ(を流す番組)」のちょうど間に当たるベタに笑える番組が少ないために先鋭的なお笑いの鑑賞者にレベルアップできない人が多いのである。

このまま「昔は良かった」と自分語りに幕を閉じ、フジテレビが意外に頑張ってくれている事実*3から目を背けつつ閉廷しても良いのだが、ここは一つベタに安心感あるお笑いを提供する番組を提示しておこうと思う。

ネタ番組が終了してしまい、残った焦土には終わってるバラエティが残されまくった今、ベタに安心感のあるお笑いが見れるのは深夜アニメである。

 

(おしまい)

*1:2009年の天竺鼠のネタ

*2:2010年のジャルジャルのネタ

*3:毎週金曜日23時30分から「ネタパレ」放送中。中堅と若手のネタを半々程度に混ぜてセットにすることで若手のネタを見てもらおうとしているぞ。また改編期にはENGEIグランドスラムという特番も絶賛放送中だぞ。