- まえがき
年末年始くらいはいろんなネタ特番あるし、感想綴っておくのもありかな、と思っているこの企画。
今年はすべらない話が早めだったり、M-1が遅めだったりで対象にする番組は結構多かったんですが、絞ってみると意外とこんなもんでした。多分、爆笑ヒットパレードとおもしろ荘を今年も全見逃ししたからだと思います。というわけで、見たい人はみて、どうぞ。
- 天竺鼠(漫才)
M-1グランプリ敗者復活戦より。これといった設定すらなく、ただただ訳の分からないパワーワードや件を並び立てるだけという、彼らとしては平常運転なネタ。
………なのだが、過去の敗者復活戦より明らかに濃密さが違う。1分伸びたというルール上の都合もあるかもしれない、ラストイヤーゆえに彼らが意気込んでいた証かもしれない。「わけわからんことばっかり言うて…」→「本当にわけわからんことっていうのはな…」の件が特にすごい。これを差し込むとボケ数は増やせるが、ハードルも上がる。この賭けに勝てる芸人はなかなかいないと思うのだが、天竺鼠川原という男は勝ってしまうのだから恐ろしい。一回くらい決勝の舞台で見たかった!と、最後の最後まで思わせてくれる漫才だった。
- トム・ブラウン(安めぐみ)
M-1グランプリ敗者復活戦より。「安くてうめえグミを4つ集めて安めぐみを作る」………相変わらず、言葉遊び的にしか理にかなっていない合体漫才の新作。
システム自体はもう割れているのに、あのナカジマックスや加藤一二三よりカオスな漫才を作り、正当な進化を遂げてしまうところがすごい。何せ「め!め!め!…」と2人でひたすらめと叫んでいるだけの時間がかなりあるのだ。「これで一人ですよ〜!」も声だして笑ったな…。
- セルライトスパ(ディズニーの面接)
M-1グランプリ敗者復活戦より。「ディズニーの」というところ以外は普通の漫才コント…だが、かつてゴッドタンの「この芸人がスゴい」で呼ばれただけあってボケのキレは相当良い。今までのセルスパより間が詰まって手数多めなのも相当いい。
「短所は…ありがとうが言えない」、「高い声出して」→「ギョギョッ!」、「ミッキーのグッズを売る」→「ネズミ講ですか?」などパワーワードをただねじ込むだけでなく設定やフリに合わせたボケが多いのも良い。それでいてセルスパ元来のパワーも見せれている。これは凄かったですよええ。
- ネルソンズ(うんこ)
にちようチャップリングランドチャンピオン大会より。高校の授業中にウンコを漏らした生徒。翌日の朝には異変が…。
一人の強烈なキャラクターが会話の中でなく、フリーダムに暴れるという構図はこれまでのネルソンズには見られなかったもの。その点でネルソンズは新たな形に挑戦し、キングオブコント(2019の決勝2本めの予定だったらしい)や、にちようチャップリンにかけてきた。この意欲たるや。もちろんネタ直後の大悟の「高校でウンコ漏らしたらあれぐらい覚悟決めるよな」というコメント通り、ただの不条理でなく共感のスキもある。こういうコントを練り上げられれば今年のKOCも……簡単なことではないんだけど。
- かが屋(イヤホン)
にちようチャップリングランドチャンピオン大会より。ワイヤレスのイヤホンを付けている男…このイヤホンが実は…。
「イヤホン」としかタイトルの付けようのない二転三転する展開がナチュラルに繰り広げられるのが気持ちいい。これだけでもかが屋の真骨頂を見たという印象だが、ツッコミにもボキャブラリーが要求されて久しいこの時代に、「あまりの状況にキモいしか語彙がなくなる友人」を演じきってしまう加賀にも注目したい。あまりにもさりげなく、天丼や縦軸として使っている印象を抱かせないが、実は相当な演技力を活用しているはずだ。何というか、コントのためのセリフと思わせないのにコントとして笑いが取れているんだよな。何なんだろう。
- ラフレクラン(誘拐)
にちようチャップリングランドチャンピオン大会より。金持ちの息子を誘拐した男。息子に電話を代えてみると金持ちの息子には金持ちの息子なりの苦悩があるようで…。
シチュエーションに不自然な部分やシュールというか飛びすぎている部分がないのに、しっかり見たことない設定でしっかり面白いという彼ららしい良作。誘拐犯がどんどん息子の肩を持って優しい要求をしていくという展開も素晴らしい。誘拐犯が肝心の百万円を忘れてしまうのも、誘拐された側が「百万円は?」と質問するのも完璧。その展開の中に「算盤を習ってて良かったという奴を見たことないからだ!」というワードを入れられるのも良い。
ちょっと感動的なコントってのがレッドシアター世代の自分には余計にぶっ刺さっちゃったな。
- 空気階段(ゆうえんち)
にちようチャップリン未公開より。ある事件の犯人と手を組んで難事件を推理することとなった刑事。犯人が起こした事件というのが…。
本人が終盤まで全裸になることなく「全裸」の面白さを見せつける手法、事件をテロップにしてしまう見せ方の手法、この2つが新しい。新しいのに結局「全裸」の笑いというバカっぷり。「ECCフランス語コース全裸入会事件」って何だよ、入会させるなよ。
- スーパースター10割引
LIFE人生に捧げるコントより。あるスーパーの割引セールは10割引!……もちろん単なるミスプリで…。
セールの時になぜか催しを行うスーパーのコント「スーパースター」シリーズの新作。今回は「10割引」という捻りを加えている。そういえばこの回では「神メンツ」などのシリーズでも捻りを加えてきていた。こういう捻りも入れられるようになっているあたり、LIFEは強い。
- アキナの雰囲気(令和南)
オールザッツ漫才2019より。昨年よりTVerなどで配信されている少し特殊な空気のネタ番組。この特殊な空気下で、彼らはいつもの漫才ではなく「アキナのネタの雰囲気を演じる」というコントを披露。声などだけでなく設定や台本の感じもマネしつつあくまでオリジナルという単なるモノマネに捻りの入ったネタが非常に良い。分かるよ…アキナが学校ネタやる時のヘルメットすげえ気になるんだよ…
- 持ち物検査(ニッポンの社長)
オールザッツ漫才2019より。タバコの吸い殻が発見されたので持ち物検査を実施、すると明らかに動揺している生徒が…。
明らかに動揺している生徒が真面目、というスカしの天丼ネタ。ケツが毎回スンとした顔になるのも良い。何で真顔があんなに面白いんだろう。オチのもう一裏切りもも最高だった。
- ダンゴムシ(セルスパ)
オールザッツ漫才2019より。ある子供が「パパー、ダンゴムシがいるよー!」と大須賀に指を指す。その失礼な態度に大須賀は…。
丸々太った大須賀が灰色のシャツを着た姿を「ダンゴムシ」と評するのにも笑ったが、子供に直接でなく父親にツッコミを入れるというシステムがまた良い。コントにおいて、実際にいない人物がマイムなどで表現されることは珍しくないが、ここまでしっかり絡むのはなかなか珍しい。「僕が言っても意味ないから、お父さんがちゃんと言わんと」。
- 大塚澪(エロオペラ)
オールザッツ漫才2019よる。なんでもアリな空気漂ううえに、多くの芸人が出るこの番組では、何となく「他の番組で二度とお目にかからなさそう」と思いながら腹が爆発するほど笑わせてくれるネタも少なくない。このネタが完全にそれ。「エロオペラをやります」と宣言したのち、オペラを歌いながらマネキンを亀甲縛りするというただそれだけの代物。この足し算がなぜかめちゃくちゃ面白い。なんというか、ちょうどいい粗さだったよ、うん。
- 友近(ヒール講談)
検索ちゃんネタ祭りより。ヒールを床に叩く音を利用して講談(?)をする…というただそれだけのネタ。
話の内容は友近自身が好きだったドラマを語るというもので、すべらない話的なエピソードトークではない。斬新なシステムな気もするが、実際は靴を叩きつけて遊んでいるだけのような気もする。しかし、立て板に水のような語り口とヒールで床を叩く音や動きにより聞けてしまうのもまた事実で、友近が「本気」で「やりたい放題」なのが伝わってくる。何なんだこのネタ?
- 東京03(オーディオ)
検索ちゃんネタ祭りより。喫茶店で開業当初から使っているオーディオは友人からの贈り物。しかし、店主はそのオーディオを気に入っていなかった…。
今回の年末年始はあまり東京03を見なかった気がするが、その安定感はあまりに健在。オーディオへの些細なストレスを長年溜め込み、爆発させるという東京03らしいコント。かなり酷いことを言っているはずの角田の演技がコミカルなのもさすが。
「音楽が好きだからこそ、オーディオは自分で選びたい」という面倒なオーディオオタクの感覚をつついてくるが、この感覚はオーディオオタクに限らない普遍的な感覚でもある。東京03はこういう感覚の発見が相変わらず巧い。あと「赤はない!」ね、絶妙な違和感を生み出すために赤を選ぶセンスが最高。
- かが屋(面白い人が好き)
飲み会で「面白い人が好き」という女性と、小ボケを続ける男…。
「面白い人が好き」という女性の言葉に答えるが、面白くない男が描かれている………のかと思いきや、まさかの形成逆転。この逆転はまさしくかが屋としか言いようがない!こういう視点の転換だけで一本のネタを作ってしまえるのが本当にすごい。もちろんそのために脚本や演技を相当研ぎ澄ますのもかが屋の得意技。「カヌー」がボケじゃなくて普通にウソになってしまう件が好き。他のボケも絶妙に一般人の飲み会っぽいんだよな。
- 角田の子(角田晃広)
マジ歌選手権より。妻が家族同然に扱っているオウムの蘭丸が逃げたことに対し、妻と違って涙が出ない自分のことを歌うという、東京03のコントさながらの切り口。「ペットの鳥」だから笑えるけど、連れ子に置き換えると結構エグい。そこを「蘭丸かじっていた」という歌詞や演出で、鳥ということを強調しておいたり、曲調を爽やか目にしたりしておいたりといったバランスがいい。けど、バランスに任せて結構最悪なこと言ってるのが最高。「妻がかった鳥だからかな」じゃねえよ!オチもちゃんと最悪だし!あと完全に余談だけど、多分我が家のTVに佐倉綾音が映ったのはこれが初めてです。
- 神をも恐れぬ最新科学(後藤輝基)
マジ歌選手権より。このコーナーで、フット後藤は「マジでカッコいい歌を作っているのにダサい」というある意味企画に対する正解を持ってきてくれる。こういう手合いは回を重ねると、やっているのかいないのか微妙なところになってくるのだが、そんなところはどうでもよくなるくらい面白い曲だった。
このダサさと未来というテーマの相性があまりにも良い。チープなサイクロプス的サングラスや、周りが光るだけのギターなどもそうだが、「USB、B、B」などの歌詞も最高。そもそも何十年も先なのに、まだUSB使ってんのか。
- ジェラードン「オフィス」
お笑い推して参る、より。昨年のにちチャプグランドチャンピオン大会でもかけていたネタだったはず。残業が溜まっており、とうとうオフィスで1人に。そんな状況でやることは、パンイチで暴れ回ること…?
お笑い第7世代などという言葉が席巻する昨今において、ジェラードンは「強烈キャラ」などを取り入れるコント師。このコントでも軸は「パンイチ」。パンイチや裸の面白さというのはあまりに古い。
が、この大ベタなバカを思いっきりやりきってしまう、そしてやりきることで大きな笑いを生み出せる表現力こそがジェラードンの脅威である。
さらに、このネタでは「ヨウコちゃんの机」「パソコン調子悪いのこいつのせいじゃねえかよ」「レンチンの音で警備員を追い返す」といった伏線回収、被せ的なシーンも用意されている。裸のベタと伏線の妙、この2点のバランスがあまりにちょうど良い作品である。
- そいつどいつ「魂の授業」
お笑い推して参る、より。刑務所で特別授業をしに来た教育評論家。その中に出てくる漢字が知らない字で…。
コントそのものは、「知らないものをさもあるかのように話すボケ」のみ。だが、構成などはかなり仕上がっている。
そもそもの設定が「少年刑務所の慰問」であるため、ツッコミの囚人が話し方含めてアホっぽい。そのため、本当にツッコミがアホで、そんな漢字が実在するんじゃないかと少し思わせてくる。ここのバランスが絶妙。
また、構成も「知ってる字から知らない字」、「知らない字から知ってる字」「漢字はわかるがメッセージがわからない」、「知らない字からできた『カメ』」といったシフトの巧みさ。この設定で満足感を出せるのは凄いこと。
- ライス「怪盗」
お笑い推して参る、より。怪盗の変装を見破れない刑事…その怪盗の変装とは…。
どっちもボケだしどっちもツッコミとも思える設定の見事さがさすが。推理シーン特有の引きを作り、変装のしょうもなさを飽きさせない。怪盗の方から「やめちまえ!」が出てくるのも見事。2人のバックホーンが見えかけたところでオチなのはもったいないといえばもったいないが、スパッと終わらせてる潔さもある。
- やさしいズ「オリジナルソング」
お笑い推して参る、より。オリジナルソングをメモっている彼女とダラダラしてる彼氏。
優しくもバカなカップルのコント。このコントの凄いところは「彼女のロークオリティな歌を褒めまくる」というある種のすべり芸がコントの軸となってしまっているところ。一つのボケとかではなく、乗っ取らせてしまっている。間や適度な裏切りなど、やさしいズに今更いうでもない技術も光っているが、とにかくすべり芸軸というのになんか感動すら覚えた。
ドリーム東西ネタ合戦より。普通の「客と店員」の漫才コントをやり続ける彼ら。今回もまた、細工なしの漫才コントを見せつけていた。
「弁当屋」という少し個性的な設定、捻り過ぎていないボケ、衰えないテンポとボケ数………もう一回M-1出ても優勝しかないんじゃないか?もとい…M-1もう一回出るために仕上げているのか?漫才師としてのサンドウィッチマンの揺るぎなさを今年もまた感じてしまったのだった。
- コンサート(又吉チーム)
ドリーム東西ネタ合戦より。友達から譲ってもらったコンサートチケット。正直あまり知ってる曲もないのだが、まさかの最前列で…。
「あまりファンでない人がコンサートの最前列の知らないノリに巻き込まれる」という状況を描いたコント。アーティストは出てこず、観客のノリと最低限のセリフだけでそれを表現している。センターだけフリが違う、アーティストに少し怒られる、覚えたフリが通用しなくなる、など丁寧に展開していく。アーティストのノリの実態がどこまで行っても見えないのがまた良い。干支の件とか何なんだ。こういうシステムの中で掘り下げられていくコント、個人的にかなり好きだ。
オチのハッピーエンド感も良い。良いんだけど、3曲目の最後には帰ってる気もする。いや…意外と観客たちと仲良くなってたりして………。
- デスゲーム(かまいたち)
ドリーム東西ネタ合戦より。クラス全員に来たメール。予告通りに死んでいくクラスメイト。…のはずが、山内にだけメールが来ていない。
クラスからハブられる、というのはとても悲しいはずだが、デスゲームとなると話は別。この部分に着目し、山内のハブられてるサマを必死に訴える部分も、クラスの中で自分だけデスゲームに参加していない無敵さを活かす展開も、もちろん良い。
しかし、このネタの仕掛けは「無駄にテンション高い山内も変だが、デスゲームに巻き込まれるのに冷静すぎる濱家も変」という構造だろう。この構造が遅くともオチまでには明らかになるようにできている。この辺りを分かりやすく伝えることで、シュールになりすぎない加減がかまいたちは非常に巧み。
- 華丸大吉(プレバト)
華丸はプレバトに出演したい。それも先生側で…。
博多の飲兵衛でしかない博多華丸が「居酒屋の注文のプロ」になる。どこまで行っても「飲兵衛の妄言」でしかなく、それでいて共感、感心する部分が少なくない。彼らはTHE MANZAIでも岡村隆史の目の前で「チコちゃんに叱られる」のパロディをやってのけた。「華丸のキャラがあらゆる番組に出没する」というフォーマットで彼らは無敵になってしまったのかもしれない。
- 天然のおばあちゃん(後藤拓実)
人志松本のすべらない話より。子供の頃祖母にレンジャーキーを頼んだ後藤。「昔おじいちゃんが使っていたのがある」と、今思えば要領を得ない返答をしてきて…。
天然のおばあちゃんが子供のおもちゃを買い間違える…というあまりに素朴なテーマのトーク……………からは想像もできない急カーブで話が終了する。はっきり言って怖いとまで思ってしまった。人志松本のゾッとする話で披露されても違和感全くない。何とも言えない恐怖に満ち溢れた話だった…。ちなみに件の女優はもう特定されているらしい。ネットも人も怖い。
- 殺人容疑(松本人志)
人志松本のすべらない話より。よく仕事を共にする放送作家が、重大な殺人事件の容疑者に。DNA採集までされてしまい…。
「殺人容疑がかかる」というテーマ、松本人志の警察への批判的懐疑的視点が入る中盤と、重い話のはずだったのだが、それを全て吹き飛ばす「俺のDNA返せ〜!!!」。この時点で面白いし、展開ももう一回裏切ってオチるのだが、「別の意味でクサいと思われたで」、「GT-Rか何かなんかな」などサラッと小ネタを挟むのも上手い。何だかんだ言ってこの番組は松本人志が一番面白い気がするから凄い、と思う。
- 作り話(岩橋)
人志松本のすべらない話より。2年目くらいの時、芸人のトークは全て作り話だと思っていた岩橋が作った面白話とは…。
ネタパレの「エピソードトークが嘘かどうか見抜くコーナー」にて披露され、ゲームバランスを破壊するほどの大嘘で大爆笑をさらい、当ブログでも擦らせていただいた*1あのトーク。その誕生秘話である。てっきりネタパレのそのコーナー用だと思っていたが、まさかこんな理由で作り置きされている話だったとは…こんなところでこの話とまた出会えるとは思わなかった。いやー、何というか、良かった。良かったよ。うん。
*1:これ