こちら葛飾区亀有公園前ボブスレー

(2017年)

(派出所にて)

両津「冬季オリンピックだと?」
中川「ええ、来年の平昌オリンピックですが、ジャマイカ代表のボブスレー用ソリを新しくするとかで…」
両津「ジャマイカのソリなんだからジャマイカで作ればいいだろ」
中川「いや、それは…」
両津「だいたい冬季五輪なんか誰も見てないだろ。やめてもいいくらいだぞ。」
中川「平和の祭典ですし、誰も見てないとかでは…」
両津「何が平和の祭典だよ。北朝鮮との関係も解決してないのに韓国でやる時点でそんなもんじゃないだろ。大体、平和の祭典だったらスポーツで各国が闘ってる時点でおかしいだろ」
部長「…………………」
両津「若者も今更オリンピックなんか見ないぞ、部長みてえなジジイのせいでバラエティとかをドラマをくだらねえオリンピックに潰されて、可哀想なもんだ。でも中継しねえと、『何で中継しねえんだ』とか文句言い出すからな、ああいうジジイは」
部長「…………………」
中川(顔がひきつる)
両津「そう考えると、とんでもねえクレーマー世代だよ、何が平和の祭典だって話だよ。」
部長「誰がとんでもないクレーマーなんだ?ん?」
両津「ゲゲッ!?部長!?…いやいや、私は北緯38度線問題について中川と…」
部長「嘘つけ!全部聞いていたぞ!とんでもない、のはお前の方だろ…お前みたいな奴が平和を乱してるんだ」
両津「いやあ…部長のおっしゃる通りで…これは一本取られたな…ははは………(中川をこづいて)バカヤロ、何で部長が後ろにいるのを言わないんだ」
中川「遅かったんです、すいません…」
部長「そういえば、ジャマイカ代表のボブスレーだが、お前が作るんだぞ」
両津「えっ!?どうして!?」
部長「ジャマイカ代表が、ものつくり大国日本のソリがいい、と頼んできたんだ。」
中川「日本製品は品質がとにかく良いと海外でも評判ですからね」
両津「だからって…私一人ですか!?」
部長「そうだ、その方が警察のイメージアップになるしな。」
両津「軽い気持ちで頼まないでくださいよ!どうせ1円の金にもならんし…」
部長「もし、ソリを採用することになったらジャマイカ代表から5億ジャマイカドルの報奨金が…」

両津(ピクッ!)「中川、5億ジャマイカドルっていくらだ?」

中川「えーと、1ジャマイカドルあたり0.86円だから…4億3千万くらいですかね。」
両津「何!?やりましょう!日本のイメージアップのために!警察のイメージアップのために!平和の祭典のためにやりましょう!」
麗子「大丈夫なの、両ちゃん?軽く引き受けて。」
両津「大丈夫だろ。ボブスレーなんて滑るだけだし。最悪板っぺらでもいいくらいだぞ」
麗子「ダメよ、そんなの!」
両津「それで4億円だからな、美味いもんだろガハハハ!」
麗子「大丈夫かしら…」
中川「先輩、手先は器用だけどお金が入ると露骨に手を抜くからな…」


(ニコニコ寮にて)
本田「センパーイ!何ですかこれ!?」
両津「ボブスレーのソリに使う樹脂だよ。」
本田「先輩、ボブスレーなんてするんですか?」
両津「わしじゃなくてジャマイカ代表のやつを作ることになってな。」
本田「凄いじゃないですか!」
両津「すごいもんか、部長も普段プラモ作ってる時は怒るくせにこういう時だけ頼りにして…プラモとソリは違うっての!…お前も手伝えよ。上手くいったら4億3000万円もらえるから山分けしよう。お前が1千万円でわしが4億2000万円だ」
本田「それ山分けですか…?」
両津「設計とかの方が大変なんだから多めにもらうのは当たり前だろ?」
本田「は…はい。」
両津「と、いうわけでゲームをやったら始めるとするか!」
本田「大丈夫かな…」


(一ヶ月後)
本田「先輩!大変です!首相がボブスレーを見にくるようです!」
両津「ほーん」
本田「まだ、何も作ってないじゃないですか!?マスコミも来るんですよ!どうするんですか!?」
両津「うろたえるな、わしが何とかするから」
本田「本当ですか…?」
首相「今、見学大丈夫ですか?」
両津「あ、もちろん」
首相「両津さん、なぜ今回ソリを作ろうと決意なされたんですか?」
両津「それは、ものつくり大国日本の底力を見せるためですね。我々の世代のおもちゃといえばベーゴマ、メンコ、銀玉鉄砲。周りの友達もそうでしたが、私はこれらのおもちゃを改造して遊んでいました。ベーゴマであれば削ったり重しをつけたり、メンコであればロウを塗ったり油に漬けたり、銀玉鉄砲はバネを強力にしたり弾道にストッパーをつけて高いところからでも撃てるようにしたり、昔の子供はわしのように遊びの中で創意工夫してきたんです。それが日本のものづくりを支えてきた、そうわしは考えています。不況の今こそ日本の底力を見せつけたい。そういう理由でわしがソリ作りをしよう!と、決意したわけです!」
首相「なるほど」
本田(首相をも騙すとはさすがペテン師…)
マスコミ「プラモデルが散らばっているようですがこれは…」
両津「ええ、一見するとソリ作りに関係ないように思うかもしれません。しかしプラモ作りもソリ作りも同じなんです!」
本田(部長に言ってたことと真逆だ…)
両津「ものづくりの心を身をもって学ぶ、そのためにプラモデルを作っているわけです。オリンピックといえば平和の祭典。各国の人々がこのプラモの部品と部品のようにつながり一つになれば、そう私は考えています。なので私は遊びではなく真剣にプラモを作っています。」
本田(それっぽいこと言ってる…まだ何も作ってないのに…)
首相「それではそのソリを見せていただけますか?」
両津「あ、えーとそれは……まだ企業秘密でして………」
マスコミ「製作はしてるんですよね?」
両津「え?ええ……もちろん…。当たり前じゃないですか…はは…は…」
東京出版「すいません、東京出版です。あなたの心意気に感動しました。ぜひ道徳の教科書に首相の方と一緒の写真を載せたいのですがよろしいでしょうか?」
両津「大丈夫ですよ。イエーイ、ピース!」
東京出版「すいません、道徳の教科書なんでピースはちょっと…」
両津「あ、ダメなの?」
マスコミ「ありがとうございました!」
両津「じゃあね、バイバイ!もしジャマイカがボブスレーで金取れなかったら私のソリのせい、もしジャマイカがボブスレーで金を取れたら選手のおかげ、とか書いておいてね!」
両津「(マスコミが見えなくなってから)フーッ!ちょっとやりすぎたかな?」
本田「やりすぎですよ!まだ何もできてないのにどうするんですか!?」

両津「まあ、何とかなるだろ。さ、プラモの続きをやろう!」

本田「大丈夫かな…本当に…」


(一ヶ月後)
(派出所にて)
両津「いやあ、おはよう!」
中川「あ、おはようございます。」
両津「ソリが完成したぞワハハハ!」

中川「おめでとうございます!」

麗子「さすが両ちゃん、ね」
部長「両津!まだ書類出してないのか!早く出せ!」
両津「いい〜んですか〜?私はジャマイカ代表のソリを作った英雄ですよ〜〜???」
部長「ウッ…」
両津「あーあ、誰かさんに怒鳴られたせいで肩凝っちゃったな〜肩揉んで欲しいなあ〜誰かさんに」
部長「クッ…(両津の肩を揉む)」

麗子「始まった…わね」

中川「弱みを握ることとたかることにかけては天才的だからね」
両津「肩終わったら足ね。私は疲れてますからね。」
本田「センパーイ!大変です!昨日完成したソリ、全然規格に当てはまってないです!」
両津「何!?規格なんて聞いてないぞ!?」
本田「最初にもらったでしょう!まず選手と合わせた体重が50kgも足りないですよ!」
両津「だったら、選手が乗る前に50kg水飲めばいいだろ」
本田「ダメですよ!選手、タプタプになっちゃいますよ!」
両津「それじゃあ選手が入るところに米かなんか50kg入れておけ」
本田「選手どこに入るんですか!?あと長さは長いし、幅も小さいし、そもそも菱形な時点でダメだし、とにかく作り直さないとダメです!」
両津「そ、そうか…」
部長「両津〜…」
両津「あ、僕急に疲れ取れてきちゃったんで、マッサージはもういいです部長殿」
部長「いや、もう少しマッサージしてあげよう。座ってなさい両津くん」
両津「いやあ…気を使わなくて結構ですよ…」
部長(警棒で両津の頭を思いっきり殴る)
両津「ぐう!」
部長「もう少しマッサージしてあげるから、座りなさい、両津くん、ね」
両津「ぶ、ぶちょ〜!それはマッサージじゃなくて虐待です、ぶちょ〜!」

 

(一ヶ月後)
(ニコニコ寮の庭にて)
両津「と、何だかんだありつつ発表前日には完成させてしまうのがわしの凄いところだ」
本田「長さ、幅、重さ、全部規格通りです!」
両津「わははは、天才と呼びなさい!ソリだけに総理大臣賞なんかもらえちゃうかな!(完成したソリにもたれかかる)………あら?」
(ソリが滑り出す)
両津「まずい!道路に出たら大変だ!」
(ソリが下り坂に差し掛かる)
両津「下り坂入ったらまずいぞ!(ソリに掴まる)おい!止まれ!バカ!ご主人様だぞ!…ギエエエエ!」
ガン!ガツン!ゴン!ガン!(ソリが道路両側のブロック塀に当たりまくる音)
両津「ぐう!ギャン!きゃいん!グエッ!」
本田「センパーイ、大丈夫でしたか…うわああああ!」
両津「わしは大丈夫だったが…ソリはもうダメだ、完全にひしゃげちゃってる…」
本田「どうするんですか!?発表明日ですよ!」
両津「今から作り直すのは無理だし…うーむ…」

 

(翌日)
(葛飾署にて)

 部長「マスコミの皆さん、ジャマイカの選手団の皆さん。本日はわざわざお越し下さりありがとうございます!」

署長「いやあ、わが署の署員がオリンピックに貢献するとはな。」

部長「こういう時しか役に立ちませんからね。」

署長「そう、このための男だ!」

本田「これが…一応…ソリです…」

部長「みなさん、こちらがソリです!(カバーを開ける)」

箱の中にソリはなく

 

「アイム

 

なんちゃって!」

 

と書かれた置き手紙だけがあった。

 

選手団「ザワザワザワザワ…」

マスコミ「これは一体…」

選手団「帰る!私たちをバカにして!」

署長「大原くん、これは一体どういうことだね?」

部長「あ、いや、これは…その……」

 

(派出所にて)

頭を卍に刈ってソリに乗ってガトリングガンを構えた部長「両津のバカはどこだ!?あのバカ、どこにいる!?」

中川「ソリの作り方を学ぶと言って、さきほどラトビアに旅立ちましたが…」

(おしまい)