数日経った今だからこそにゃんこスターを考える

こんばんは、オルソンです。
先日、というか2017年10月1日にキングオブコント2017の決勝がオンエアされました。まずはかまいたち優勝おめでとうございます。個人的には何だかんだで10年前からちょこちょこTV出てる関西の芸人というイメージでしたね。CDショップの店員に曲名がわからない曲を聞くコントをよくやっていたような気がする。あと、かまいたちのネタどころか個人的にお笑いのネタで大好きな部類に入るホームルームのネタも2010年にはキングオブコント準決勝にかけてたからねえ。東京進出という観点で見たら苦労人ですよ本当。
さて、そんなかまいたちはさておき(雑)、一番爪痕を残したのはやはりにゃんこスターだったのでは?本当にねえ、みんな設定を考えに考え抜いて台本を練りに練っているのにあんなネタにゴボウ抜きされるとはね。「シュール」とかそういうので語れないどころか、「コント」という括りにすら収まってるかもわからないような恐ろしいネタだったことは記憶に新しいことでしょう。そんなにゃんこスターのネタを敢えて徹底解剖してやろうというのが今回の記事の趣旨である。
今回のにゃんこスターのネタは曲に合わせてネタが展開する「リズムネタ」である。リズムネタはかつてラララライ体操で一発当てた藤崎マーケットが「リズムネタ、ダメ絶対」という理念を掲げていることからも分かるように、テツandトモムーディ勝山など多くの一発屋を生産してしまったうえに、通常のネタと違ってリズムに合わせる必要がある分、笑い待ちができないため笑い待ちを要するベタではないボケを除外しないとウケないことからベタなボケばかり並べてウケる簡単な手段と取られることもあって、軽く見られがちなジャンルである。しかし、キングオブコントの決勝にリズムネタが進出する機会は意外に多い。過去のキングオブコント全て洗うと

2008→2700(音楽ライブ)
2011→2700(右肘左肘交互に見て、キリンスマッシュ)
2013→天竺鼠(寿司)

ジグザグジギー(刑事と犯人)
2014→バンビーノ(ダンシングフィッソン族)
2015→コロコロチキチキペッパーズ(卓球)
2016→ラブレターズ(野球拳)
2017→にゃんこスター(リズム縄跳び、リズムフラフープ)
(斜体は準決勝でやったらしいネタ。)

である。このほか、2010のTKOの2本目(モロゾフ後藤)や2015の藤崎マーケットの1本目(ストリートパフォーマー)など音楽を使って笑いを盛り上げるコントは多い。そして、右肘左肘交互に見てやダンソンなんかはキングオブコントからブームになったと言っても良いし、結成8ヶ月の2700を決勝進出させる辺りキングオブコント準決勝の審査員にはリズムネタ大好き人間がいるのではとすら思ってしまう。さて、上記のリズムネタには万人にウケて大ブームを起こしたネタもあれば賛否両論になったネタもある。上記の中では「キリンスマッシュ」と「寿司」が該当し、にゃんこスターも今賛否両論の渦中にいる。
さて、キリンスマッシュと寿司は賛否両論を起こしたが、これらもなぜ思いついたのかわからないシュールなセンスがギンギンの部分はあるが、内容というか構成自体は意外にベタな部分がある。そりゃそうだ。ただただシュールなセンスのギンギンが過ぎるネタでは誰も笑わないネタになってしまう。というわけでにゃんこスターを考察する前にまずはこのキリンスマッシュと寿司について軽く考察しておきたい。

キリンスマッシュは、キリンがスマッシュをするかレシーブをするかという賭博にゾウがやってきてリンゴなどを賭けて行くコントである。たことない人にとっては何を言っているのかわからないと思うが俺にもわからないので、Youtubeで確認してほしい。
このコントの笑いどころは二つ。まずはどんどん賭博に溺れて行くゾウの姿。2回のベットでキリンスマッシュを選んでキリンレシーブされ、ラストベットで全財産(果物)をキリンスマッシュに賭けて全部スってしまうその愚かな姿である。もう一つはそもそもの「キリンスマッシュorキリンレシーブ」なるゲームが「それはお前のさじ加減やろ」としか言いようのないゲームになっていることである。キリンはゾウがベットしてからキリンスマッシュかキリンレシーブかを決めている。つまりキリンはイカサマし放題だし、イカサマしないはずがない。そんなゴミみたいな賭博にゾウは愚かにもどんどん溺れて行く。ラストベットでは全財産を賭けたあげく、腕まくりまでして本気でこのゴミ賭博に全力投球している。これがキリンスマッシュの成分だ。長々書いたがまとめると「キリンスマッシュは、キリンのさじ加減で決まるクソ賭博にゾウが溺れて全財産を失うコント」ということである。粗筋そのものはかなーりベタな一本道であるのが分かるだろうか。
続いて、天竺鼠の寿司のコントである。このコントは、子供が歩いていると、どこからともなく音楽が流れ寿司の被り物をした擬人化寿司が音楽に合わせて踊りにくる、というコントである。一方子供はどの寿司が踊っているかで露骨にリアクションを変える。イクラが来ると喜び、卵が来るともう喜びのあまり半狂乱になり、そして最後にシメサバが来るとこの世の終わりみたいな凹み方をする。このコントの笑いどころは「子供のリアクションが3段オチになってる」とか「卵が大好きで光り物が嫌いという子供の寿司の好みのあるある」とかである。ここだけ切り出すとあるあると3段オチなので分かりやすい。構成はカッチリとしており、全く崩しや遊びがないという意味でベタであるが、「寿司が洋楽に合わせて踊ってる」という大前提がそれをベタで終わらせなくしている。というか、後からネタを見て「これはあるあるだ」とか「三段落ちだからベタだ」と指摘、分解することはできるが、それでもネタを見ると感想は「こんなもん何食ってたら思いつくんだ」に尽きる。そしてその疑問は未だ解決されていない。

さて、ここまで過去の2つのリズムネタを振り返ってきたがこの2つのネタの特徴は「ベタなストーリーや構成を独創的すぎるセンスで装飾したコント」ということである。独創的なセンス、というのは本筋には関係ない。キリンスマッシュにおいて、なぜカス賭博の実行者がキリンなのか?なぜカス賭博の被害者がゾウなのか?なぜスマッシュとレシーブなのか?そこに意味はない。天竺鼠の寿司のコントだって、なぜ寿司が踊ってるのか?なぜあの選曲なのか?そこは説明されないし本筋でもない。しかし、本筋でないこれらの「飾り」を取っ払うことは「独創的なセンス」を取っ払うことにつながる。「飾りを取っ払ったら本筋はベタ」これが2700のキリンスマッシュと天竺鼠の寿司の共通点である。

お待たせしました、ここで、出てくるのがにゃんこスターのリズム縄跳びである。ここからは本題なのでより丁寧によりくどく解説していくぞ!

 

ワーイ!おいらは縄跳び大好き少年だよーん!縄跳びって最高だよね!」これがにゃんこスターのリズム縄跳びの第一声である。さて、コント、それもキングオブコントという時間制限(4分です)のある大会で設定を素早く的確に伝えるにはどうしたらいいか?という問題がある。一番早いのは2009年のサンドウィッチマンの1本目の「昨日まで何もなかったのにこんなとこにハンバーガーショップできてる。興奮してきたな。」のように独り言をいうことだが、この手法は不自然すぎるという問題も生む。そこで2017年のかまいたちの2本目では「電話をする」という手法がとられている。あと、2012年のしずるの1本目は漫画でよくあるやり取りを引用することで第一声で漫画的な設定を素早く伝えていた。んで、にゃんこスターがとった手法は縄跳び大好き少年に「おいらは縄跳び大好き少年だーい!」と言わせるというあまりにも雑な方法である。縄跳び大好き少年が縄跳び大好きだからって「おいらは縄跳び大好き少年だーい!」って言うか?というリアリティの問題は当然でてくる。が、そこはスーパー3助のキャラが入った言い方により、「縄跳び大好き少年は頭がおかしいから言う」という答えを用意して強引にクリアし、笑いに変えている。この「雑な独り言の雑さをつかみにしつつ設定の提示にする」という手法はキングオブコントだと2014年に犬の心が2本目でやっている。元祖の芸人が誰かって話になると面倒になるので私はとりあえず「ねねっちの夏休み」と呼んでいる手法である。とにかく、にゃんこスターがここで「縄跳び大好き少年は独り言が多くて頭がおかしい」という設定を全部提示したのである。その次の「あれ?こんなところでリズム縄跳びの発表会やってるよ?僕が見なくて誰が見るのさ〜!」も「いやリズム縄跳びの発表会あったからってこんなこと言うか?」という疑問が出てくるが疑問が同じなら答えも同じ。そう、縄跳び大好き少年は頭がおかしいから言うんです!

とにかく頭おかしい少年の手によってリズム縄跳びというワードをひとまず提示することに成功したら、いよいよリズム縄跳びが始まる。もうこのネタを見た人なら分かるがここはフリである。「なるほど、リズムに合わせて跳ぶのがリズム縄跳びなんだね」、「上手だね」、「急に速くなった!」、「サビどうなっちゃうの?」全部大事なセリフである。順番にまず、リズム縄跳びのルールを口頭で提示し、その上でアンゴラ村長の縄跳びの技術の高さも口頭で言ってしまう。独り言が多いのはスーパー3助演じる少年が頭がおかしいんだから仕方ない。芸名のセンスイカれてんのか。「急に速くなった!」も同じこと。普通のリズム縄跳びができるという技術を見せておかないとこの後のあの破壊の大ボケが効いてこないからだ。最後にダメ押しで「サビどうなっちゃうの!?」でサビ入ればOK。サビまではフリだが、「足綺麗だねえ?」というセクハラ的なボケを入れていたり、リズムに合わせて縄跳びするという絵面そのものが楽しい空気を作っているので多少は笑っている。この「楽しい空気作り」がリズムネタの長所であり、今回のネタの底知れぬ恐ろしさを表している部分である。

というわけで、サビでどうなったかはご存知の通りだろう。「縄跳びなのに跳ばない」という破壊をやってのけたのである。「縄跳びなのに跳ばない」というのはフリに対して真逆のことをするということであり相当ベタだ。しかも、それをかなり丁寧なフリの元で行なっている。これではスカッとJAPAN(オチがベタなのにフリを長くしすぎることで、オチを読まれてしまいクソほどつまらなくなる現象の名前)だ。しかし、そうならずむしろ爆発的なウケを獲得した理由は先述の通り。大塚愛さくらんぼの曲調とアンゴラ村長による高い技術のリズム縄跳び(そしてそれを高い技術だと提示した少年の功績)、そしてスーパー3助演じる少年のキャラクターが楽しい空気を作ったからである。芸名のセンスイカれてんのか。楽しい空気を構築することにより、観客にオチを考える思考力を溶かす。それがこのネタのやり口である。

「跳ぶ気全くなし!」という的確なツッコミを経て、曲は2番に入る。ここでスーパー3助演じる少年の仕事は当然「フリ」だが、観客もさすがに(被せてくるだろう)と読む。もちろんこの読みが、わかってても笑ってしまう状態につながれば最高な状態でもある。そこで少年のセリフを拾っていくと、最初は「サビでそれやればいいのにさ…」と的確なツッコミを入れていくが、Bメロ入口あたりからおかしくなってくる。そう「この動き(サビで縄跳び捨ててやったダンスのこと)求めてる僕がいる!この動きが頭から離れない!」だ。そして「サビが来る!」とサラッと5文字で振ってからの「待ってましたー!この動き待ってましたー!」でフラストレーションが爆発してドカンとウケる。…この「フラストレーション」は元来、我々視聴者のものではないスーパー3助演じる少年がアンゴラ村長に対して抱いているフラストレーションである。芸名のセンスイカれてんのか。しかし、観客やTVで見ていた私もあの動きで笑ってしまったのである。そして、スーパー3助の役を漢字2字で言うとしたら「観客」である。つまりリズム縄跳び発表会に対する立場は観客と同じといえば同じである。しかし、当然これはコントであり、スーパー3助アンゴラ村長が綿密にネタ合わせしてキングオブコント決勝に来ているのは言うまでもない。芸名のセンスイカれてんのか。つまりスーパー3助は「観客役の人」であって「観客」ではない。そう、「観客と別に、ステージの演者と打ち合わせした観客役の人がいる」、「観客役の人が欲しい欲しいと煽るから大していらないはずのものすら欲しくなって来る」…ここまで書けばにゃんこスターのネタが、コントでなくて何なのか見えて来ましたね?そうですこのネタはコントではなくSF商法だったのです!

突拍子もないかな?でもここまでをまとめるとそんなことないはずだ。まず、頭のおかしい縄跳び大好き少年が観客として最前列に座る。観客は最初はその少年を頭がおかしいと思っているが、コントが進行するとリズム縄跳びのことを丁寧に説明してくれるし、縄跳びの技術を上手い上手いと煽るので縄跳びに無学な観客なのにリズム縄跳びに興味を持ってしまう。そして、1回「あの動き」という名の商品が提示され、その商品が一旦引いた後観客役が「欲しい欲しい」とうるさく煽る。そして自分も欲しくなってしまったタイミングで「あの動き」がくるので、審査員の松本も言っていたように「まんまと」商品を掴まされてしまうのである。これがSF商法でなくて何だろう…。

この後の「楽しい空気」と「破壊的なボケ」が入り乱れた「何でもアリな空気」は伝説の縄跳びの件を経てオチへ向かっていく。ここで余談だが、伝説の縄跳びの件ももっとウケて良かったような気もするが、意外とピンとこなかったのか。GAG少年楽団の幼馴染の関係をジジババに置き換えたコント同様ベタな設定をズラすボケやコントは大元の「ベタな設定」を知らない若者が観客の主体であるキングオブコント決勝では辛くなるのかもしれない。話は戻るが、何でもアリな空気から放たれるあのオチである。何でもアリな空気の中でする何でもアリなボケはそらウケるでしょうよ!我々はずっとスーパー3助という観客役に踊らされて「ボケ」という名の商品をSF商法で売りつけられ、買わされていたのである!チクショウ!クーリングオフさせろよ!

さて、このSF商法という観点で2本目のネタ「リズムフラフープ」を見ると面白いことに気づく。基本的には1本目と全く同じ構成であるため、ネタのクオリティと別件で賛否両論なネタだが、一方で大きな差異は「指で長方形作る奴」や「くるくるチョキ」、「もりもりっとした動き」など、動きの種類が増やされていることである。そして、この「動き」というのはスーパー3助が売りつけてくる商品である。そこで先ほど挙げた3つの動きに対するツッコミを見ていくと「カッコイー!」、「くるくるチョキはやめて!ダサいから!」、「わ!もっとダサい!」である。そしてこのアンゴラ村長の動きを見て我々観客と視聴者はダサいと思うから笑う…のだが、この、アンゴラ村長の動きへの評価は我々が自分で下した評価じゃないからね?スーパー3助にノセられているだけだからね?芸名のセンスイカれてんのか。よく考えたら1本目でも2本目でもやたら「この動きいいよね!」と絶賛しまくっていた。だから笑ってたんだな俺たち!チクショー!ハメられたー!

結論を言うと、にゃんこスターのネタは「縄跳びなのに跳ばない」というベタすぎるボケを「縄跳び大好き少年のキャラクター」、「大塚愛さくらんぼ」、「アンゴラ村長の縄跳び」、「スーパー3助のフリとツッコミ」という装飾で楽しそうな空気を作り、見るものの脳を溶かして爆笑を作り出すコントなのである。芸名のセンスイカれてんのか。そして、このベタ+装飾はキリンスマッシュや天竺鼠の寿司のコントに通じるものがある…。いやー、ほんと鬼才のコントだと改めて思いますね本当に。

(おしまい)