キングオブコント〜ルールと審査の歴史〜

1、はじめに

2017年10月1日にはキングオブコントの決勝戦がオンエアされる。キングオブコントが産声を上げたのは2008年のことであり、今回のキングオブコント2017は何と10回目となる。キングオブコントは、コントのキング、つまり日本一面白いコントをする芸人を決める大会であり、その決勝戦では爆笑のコントと、白熱した闘いを見せて…いや魅せてきた。しかし、キングオブコントの決勝戦のルールはこの10回に渡り幾度となく変遷を繰り返してきた。そこでこの記事ではなぜルールが改定され続けたのか、という点に注目すべく、過去9回のキングオブコントの決勝の流れを振り返りたいと思う。

 

2、2008年第一回大会

  2008年、キングオブコントの第一回大会。松本人志が運営に深く関わっており、フレッシュな視点を取り入れるために準決勝で敗退した芸人100人が1人あたり持ち点5点、500点満点で審査するという点が非常に斬新であり、特に最終決戦では決勝進出8組*1が決めるというルールは斬新すぎて賛否を呼んだり呼ばなかったりした。

 この年の出演者は

(Aブロック)

TKO

バッファロー吾郎

ザ・ギース

天竺鼠

 

(Bブロック)

チョコレートプラネット

ロバート

バナナマン

2700

であった。完全に言いそびれていたが、この年ではブロック制が採用されており、各ブロックで最高得点(得点の出し方は先述のように、準決勝敗退芸人100人が1人5点満点で審査)を獲得した1組同士が一騎打ちし、最終決戦では決勝進出した8組が、どちらが面白かったかを言うという審査方法だった。

さて、優勝者はバッファロー吾郎だったが、市毛良枝やキャメロンディアスなど固有名詞に頼りすぎた笑い、あまりにもストーリー性の薄いネタ*2と言った、確かに面白いが優勝ネタとしてはあまりに貫禄のないバカネタだったことや、ブロック制だったためにロバートはバッファロー吾郎より高得点を取ったのにバナナマンより高得点を取れなかった*3がために最終決戦に出られなかった(つまり、8組のうち得点ベスト2が最終決戦に進出したわけではない)、最終決戦の8組の投票が口頭、つまり非匿名であったうえに、よしもと所属が全員バッファロー吾郎に投票し、非よしもと所属が全員バナナマンに投票するというあまりにも意味深すぎる割れ方をしたことなどが重なり、ヤラセだなんだとネットが大炎上した。この初回のルールは完全に闇に葬りさられ、ルール改定の歴史が始まるのである。

 

2、キングオブコント2009-2013

このルールだった時期が最も長い。優勝者となる芸人を決めるのは、芸人自身というコンセプトを引き継ぎつつ、前述で延々太字にした炎上理由をひとつひとつ丁寧に潰した形となっている。

 まず審査員が準決勝敗退芸人100人なのは変わらず。これにより、2008年同様、ダウンタウンがネタの感想を準決勝敗退芸人に振って、しどろもどろしたりしなかったりするサマをイジるところも楽しい番組となった。

一方で、まず8組が1本ネタをやった後、その得点が低い順にもう1本ネタをやり、1本目と2本目のネタで取った得点の高い芸人が勝利というルールになり、ブロック制が廃止されると同時に最終決戦が消滅したため謎の記名投票もなくなったのであった。そして、このルールにより、視聴者は「2本目何だったんだろう?」と思うことなく、全ての芸人が2本の勝負ネタを見せてくれるという点で良い番組となった。ただし、ネタの本数が10本から16本となったため、ネタの尺が5分から4分に縮められた。あと、関係ないが審査員1人あたりの持ち点が5点から10点になり、500点満点から1000点満点になった。

しかし、これでも全く問題がないわけではなかった…。まず、目立った欠点は審査員が100人いるため審査員100人が1点ずつ下げると、100点減るということである。この割を食ったのが2009年のジャルジャルである。というのもこの年はトップバッターがのちに優勝することとなる東京03。「あまりにもビビりな店長を前に、コンビニ強盗がどんどんいい人になる一方で、店長が強盗に驚く様子を見て笑うというサイコぶりを見せる店員」という3人のキャラクターや心理が丁寧に描写されたコントで835点を取った後に、ジャルジャルはただしりとりをするだけ*4というコントを披露し、けしてスベってはなかったはずなのに得点は734点。101点差という、絶妙さは1人が1点ずつ減らしたという仮説を裏付けているようにも見える。また、逆に1人が1点ずつ上げたら100点上がるというパターンもあり、2009年には東京03が2本目で953点*5を獲得し、圧勝した。もう分かっただろう。面白さの審査など相対評価、つまり基準をテキトーに決めたのちその基準から外れないように採点していくほかない、ということが。そして、「基準から外れないように」というのは難しいため、後半になった方が点数がインフレしがちになるというのもこのルールの欠点であった。後半になった方が点数がインフレしがちということは、1本目のネタが下位だと、2本目でぶっちぎりの点を取って優勝…などないのである。実際、このルールの時代に1本目で1位を取らずに優勝したのは東京03のみであり、その東京03すら1本目の順位は2位であった。

と、まあ細かい欠点はあっても目をつぶりつつ*6このルールを4年間使い続けてきたが、このルールが限界だと思わせたのが2013年である。いや、実際にはこのルールでもヤラセだ何だとネットが炎上したことはあった。というのも芸人審査が「ヤラセ」と炎上しやすい最大の理由である「芸人は視聴者というか素人と感性が違う」という点は放置したからである。その結果、オバハンを連呼したコント*7やキリンスマッシュorキリンレシーブとかいう意味不明なコント*8など、あまりにもシュールで先鋭的すぎるコントが高評価を得、そしてネットが荒れた。そして、2013年は相対評価ゆえの100点単位の得点の上下動や、ネタ順後半ほど得点がインフレして有利になるの法則、芸人審査ゆえの先鋭的なネタが視聴者を置いてけぼりにして高く評価されるという2大欠点が露わになりすぎるほどに露わになった回となった。

まず、キングオブコント2013のトップバッターはうしろシティ。ここが初っ端から773点を出し、番組開始15分程度で「うしろシティの優勝はない」という状態ができてしまう。さらに2番手の鬼ヶ島がドカドカウケ、904点を獲得。鬼ヶ島自体、見る人が見ればキャラクターと勢いだけにしか見えないような芸風であり、2組目にして早くも視聴者を放置していく*9。というか、決勝では「1人あたり10点の1000点満点」なわけだが、このルールで904点がつくということは、すでに10点中10点をつけた審査員が少なくとも4人いることを意味している。インフレはえーよ。この勢いにウケを上乗せし、のちに優勝することになるのがかもめんたるしかし、この時の点数は923点とたかだか19点差。いかに振れ幅をつけにくくなったかがうかがえる。このあと、寿司をかぶって踊っただけの天竺鼠が879点、精子卵子の擬人化を演じ、受精をコントにするというド下ネタで挑んだアルコ&ピースが831点と、どんどん得点が落ち着いていく。そして、決勝8組で最もベタなネタをするとばかり思われていたTKOまでも、気持ち悪い造形のぬいぐるみが動いて喋り出すのを怖がる子供という、アクの強いコントを演じた。その結果、今回の決勝で一番ベタなのはうしろシティ、しかし最下位なのもうしろシティ、つまりベタが最下位という視聴者には優しくない結果となった。

2本目ではうしろシティが814点と、案の定振るわず。その後もガラになくリズムネタをしたジグザグジギーが819点、アルコ&ピースが808点と800前半が続くなか、天竺鼠がドカウケし、946点を叩き出してしまう*10。その後、悪い意味でベタなネタをしたTKOは808点と大失速し、さらば青春の光848点という凡打*11を経て、いよいよ鬼ヶ島→かもめんたるのツートップである。まず、鬼ヶ島が950点という、一個前の組からだいたい100点加点された結果を叩き出し、天竺鼠を叩き落とす。すると最後は鬼ヶ島に10点を入れなかった人々が鬼ヶ島より良い点をつけるかでかもめんたるの運命が決まる状態に。結果的にかもめんたる982点というパン祭りだったら白い皿が38枚貰えている点数、割合にしてセンター化学だったら官能基以外全問正解みたいな点数を取って優勝。かもめんたるや鬼ヶ島の芸風がホラー寄りというかブラック寄りだったことも相まって、ネットは荒れた。そして、キングオブコントは2度目のルール変更を行う。

 

3、キングオブコント2014

見出しを見てわかるように、2014年のルールは1回で終了した。悲しいね。まず、2014年のルールだが、前年の982点とかいう点数がいかに相対評価かということをわかりやすくするために投票制を実施。つまり、決勝進出者を2組ずつに分け、101人の準決勝敗退芸人審査員がどちらか面白かった方に投票、この投票で勝った組はもう1本ネタを行い、勝ち抜き投票をして、勝った者が優勝というルールになった。なお、決勝進出者は8組から10組となり、間口は少し広がったが、見れるコントの本数は16本から15本となってしまった。

さて、2008年以来のブロック制の復活とあれば、大切なのはブロック分けである。もちろん運営はくじ引きで決めたが、その結果ラバーガールとかさらば青春の光とかアキナとかもっとベタでわかりやすくみんなが笑えるコンビも決勝進出していたにもかかわらず、初っ端のブロックからシソンヌVS巨匠*12という最近流行りの言い方をすれば崖に突き落として残った視聴者を選別する恰好になってしまう。数字なくなんぞ。また、投票制となったことで、ラバーガールVSリンゴスター*13ラブレターズVS犬の心*14などクオリティはわずかな差でも、多くの審査員が「こっちのがわずかに上かな?」と思うだけで、票数の差はものすごく大きくなるという欠点が露呈した。さらに、バンビーノVSさらば青春の光では、きっちり作り込んださらば青春の光のコントの前に、バンビーノのダンソンが大爆発してしまう。そして、ここではリズムネタVS正統なコントという異種すぎる異種格闘技戦が勃発。

2009年の東京03VSサンドウィッチマンだとか、2011年のロバートVS2700だとか、過去に全くなかったわけではないが、違う種類のコントが審査されるという限界を視聴者にわかりやすく見せてしまった部分があった。

さらに曲者だったのは最終決戦。最終決戦では5組の投票だが、実際には1組めと2組めが戦う→票数の多い方が勝ち→3組めがネタを披露→さっき勝った組と3組めが戦う→票数の多い方が勝ち…というルールであった。その結果ネタ順は「チョコレートプラネット→バンビーノ→犬の心→ラバーガール→シソンヌ」であったが、1組めのチョコレートプラネットがラバーガールまで全組なぎ倒してしまう。これにより最後の試合であるシソンヌVSチョコレートプラネットまでにチョコレートプラネットのネタの記憶はどんどん薄れていった。これがキングオブコント2014ルールの最大の欠点と言えるだろう。初回で最大の欠点を露呈させられたキングオブコント2014ルールは早々に改定されることになった。

 

4、キングオブコント2015-

お待たせしました。これが現行ルールです。このルール改定ではキングオブコントアイデンティティたる準決勝敗退芸人が審査員となるシステムが廃止となり、松本人志さまぁ〜ずバナナマンの5人が審査員となる、M-1やR-1とさして変わらない賞レースとなった。なお、決勝進出者は10組で、点数の上位5組が最終決戦でもう一本ネタ披露して、点数の総和が最も高かった者が優勝という点数制な部分は2009-2013ルールに近いが、10組→5組→優勝という絞り方は2014ルールに近いものになった。あと、準決勝敗退芸人は用済みとなったのでお引き取りいただき、一般人が客席を埋めた。そのためネタとネタの間でダウンタウンが準決勝敗退芸人を楽しそうにイジるシーンは消滅した。

さて、このルールにはこのルールなりの欠点はある*15

 まず、気になるのは審査員の少なさである。5人て。M-1グランプリでも7人いた*16ぞ。この審査員の少なさゆえに1人が大きく点数を変えると、全体の点数も大きく下がることになる。2015年は三村の点数の上下動が大きな影響を生んだ。2016年には三村の審査は多少落ち着いたが、それでも5人の好みで日本一が決まるという状況はおかしい。というのは松本人志本人がキングオブコント直後のワイドナショーでも言っていた。

続いて、気になるのは客層の変化である。審査員の人数が100人という点でかつてのキングオブコントと共通する爆笑オンエアバトルにも言えることなのだが、客のウケと審査が一致していた。2010年のジャルジャルが2011年の2700が2013年の鬼ヶ島が2014年のシソンヌがヤラセだと思う人は是非Youtubeで確認してほしい。きっちりドカドカとウケているのである。そういうネタでウケる客がそういうネタに点を入れる審査員だったというただそれだけの大会がかつてのキングオブコントだったのである。しかし、2015年以降のキングオブコントの客層は一般人であり、そういうネタはウケなくなっていた。そうなると審査員もウケないネタよりはウケたネタの方が点を入れやすくなる。ただ、2015年に関しては設定の発想がやや弱いのをキャラクターで補おうとして補いきれなかったさらば青春の光、ガラにもなく悪魔を降臨させた割には展開が薄かったうしろシティ、メタネタという評価されにくいネタのザ・ギースと、ベタじゃないサイドのネタがやや弱かった部分はあった*17。とはいえ、この大会で優勝したコロコロチキチキペッパーズ全然ネタ番組で呼ばれないあたりにこの大会の貫禄の薄さがうかがえる。ただ、2015年は笑い声が少なかった*18だけであった。問題は2016年。観客が悲鳴を上げやがったのがこの回である。いやね、普通のネタ番組でもあったよ?ありましたよ?でもね、準決勝の審査員って結構変なコントでもウケたら決勝に上げちゃうんだわ*19。おかげで視聴者にとっては変なコントが見れる数少ない機会なんだわ。それにキングオブコントって演ってる方も見てる方も真剣なんだわ。それをあんな悲鳴で水を差されるのは普通にキツいんだわ。それに、オンバトの観客が初期の頃からラーメンズを受け入れていたことを考えると「観客が一般人だから悲鳴が上がる」なんて言われても「一般人の集め方が悪いんじゃ、集め直せバカタレ!」としか返せないんだわ。そして、そんな客でも多少は審査に響く…。というわけで、今のキングオブコントの決勝の恐ろしさは準決勝の審査員や観客の客層と決勝の観客の客層にギャップがありすぎることである。このギャップを乗り越えた者が真の王者になったりならなかったりする…。

あ、そうそう触れる機会なかったけど、2017年から、準決勝でやるネタの本数が1本から2本に増えました。

 

 

 

というわけで、コントはもちろん客層にも注目の集まるキングオブコント2017は今夜20時!

 

 

*1:なぜか自身も含む。つまり、この回の最終決戦はバナナマンVSバッファロー吾郎だったが、バナナマンバッファロー吾郎にも、バナナマンバッファロー吾郎のどっちが面白かったかを聞いたということである。なお、バナナマンは「バナナマン」と答え、バッファロー吾郎は「バッファロー吾郎」と答えたことは言うまでもない

*2:最終決戦の相手が、ストーリーを丁寧に描いたコントで評判の高いバナナマンだったことも影響していたかもしれない

*3:バッファロー吾郎は460点、バナナマンが482点、ロバートが473点

*4:この薄さこそがジャルジャルの真骨頂だとは思うのだが

*5:この直前にネタを披露したしずるは831点

*6:完全無欠な審査方法なんてないし、多少はね?

*7:2010年のジャルジャルの2本目

*8:2011年の2700の2本目

*9:オバハンもキリンスマッシュも2本目でした。

*10:この時のコントも「交通事故」という最初のシチュエーション関係なくアホな音ネタにシフトする視聴者には優しくないネタ。というか俺も初見では面白さが分からなかった。

*11:なお、1本目のネタは898点。

*12:偶然にも「パチンカスのおっさん」というテーマだった点も被っており、「パチンコで負けたら砂利を食うんだ」だの「パチンコ玉を新聞紙で包んで、焼酎ぶっかけるとクズのおっさんが出来る」だのずーっと訳わからんこと言ってた

*13:83対18でした

*14:7対94でした

*15:完全無欠な審査方法なんてないし、多少はね?

*16:2015年以降は別

*17:巨匠の評価が低いのは…展開が薄かった気もするけどもう少し評価されてよかった気がする

*18:あまりに客が重いため「前説がなかった」というウワサまで立った

*19:2010年のオバハンも2011年のキリンスマッシュも準決勝で披露されたネタである。2015年のさらば青春の光や2016年のだーりんずを上げるのもキングオブコント決勝の放送時間をわかってるのにやったとしたら結構な英断である。